日本ではいま「慢性的な人手不足状態」が続いています。一方、仕事を続けたくても育児や介護により退職していく人も多くいます。
「働き方改革」は、今までのように男性のみを働き手の中心に据えるのではなく、女性や高齢者、障がいがある人など働きたい多くの人のニーズに合わせた「働きやすい社会づくり」を行う改革です。
2017(平成29)年3月28日には、「働き方改革実行計画」として「非正規雇用の処遇改善」「賃金引上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」など9つのテーマとその方向性が示されています。
今回は、この働き方改革9テーマのうち「長時間労働の是正」と、最近話題になってきている働き方改革によって引き起こされる「2024問題」について、まとめてみます。
「働き方改革」の9テーマ
働き方改革は9つのテーマに分けられ、そろぞれのテーマによってスケジュールを定められ実行されます。
働き方改革の9つのテーマ
① 非正規雇用の処遇改善
② 賃金引き上げと労働生産性向上
③ 長時間労働の是正
④ 柔軟な働き方がしやすい労働環境
⑤ 病気の治療、子育て・介護等と仕事の両立、障害者就労の推進
⑥ 外国人材の受け入れ
⑦ 女性・若者が活躍しやすい環境整備
⑧ 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定させない教育の充実
⑨ 高齢者の就業促進
項目数が多いため、自社で取り組むには、まず「すでに出来ていること」と「まだ出来ていないこと」を分ける必要があります。
そして、「まだ出来ていないテーマ」の中から「重要性の高い」テーマを決めてから実行すべきです。
参考:働き方改革❗️「同一労働・同一賃金」でパートや有期雇用労働者の何が変わるのか
重要性の判断をするのに優先すべきは「法令遵守」。働き方改革によって多くの法律において改正や通達が発出されたりしているからです。
次に、「働きやすく」かつ「生産性が高い」職場にするためには「何(どこ)を見直すことで、どのような効果が得られれば達成とするのか?」など具体的なゴールを定めます。そして「定めたゴール」を「即効性のあるもの」と「時間のかかるもの」に分けたあとで、実行に移すことをお勧めします。
「現場任せ」の対策では達成が難しいテーマばかりなので、「全社的なコンセンサス」を得なければ、継続的な取り組みや目標達成は困難です。
また、効果が現れるまで「時間がかかる」とあらかじめ分かっていれば、焦って成果を求めたり、中途半端な状態で取り組みをやめてしまうことも減り、継続的な取り組みが期待できます。
「長時間労働の是正」に向けた取り組み
「誰もが働きやすい社会」を実現するためには、「長時間労働」を是正しワークライフバランスを実現していく必要があります。
長時間労働は、労働者に対し「身体的・精神的な負荷」を与えるだけでなく、脳卒中や心臓発作、うつ病などによる「過労死」の原因でもあるからです。
法律による規制も強化されてます。
労働基準監督署が会社の「違法な長時間労働」を確認した場合、会社のトップに対する労働基準監督署長からの直接指導だけでなく、ホームページに企業名が公表(ブラック企業認定)されるなど、罰則が強化されています。
労働時間把握義務と上限規制
「知らなかった」はゆるされない!
会社が社員に対し残業を行わせるには、時間外・休日協定(いわゆる「36協定」)や特別条項の締結が必要です。
今回の改正で、残業は「月45時間、年360時間まで」と労働基準法に明記されました。また、いままで「青天井」状態であった特別条項においても「天井」が定められ、違反した場合は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」となっています。
・36協定を締結した場合 → 月45時間・年360時間まで
・特別条項つき36協定を締結した場合 → 月100時間・年960時間まで
残業とは、会社の指揮命令下におかれている時間のこと。会社(使用者)の指示はもちろん黙示の指示も指揮命令下となるので、「持ち帰り残業」や「残業申請していない時間」なども含みます。
そのため、社員の労働時間を把握するには会社のタイムカードだけでなく、社員のPC使用のログとの突き合わせなどが必要となる場合があります。
参考:働き方改革❗️「残業」の何が変わるのか/残業のルールと労働時間把握義務について
月60時間超えの割増賃金の猶予措置廃止
残業を抑制するために、労働基準法では会社に対して通常より高い賃金の支払いを義務付けています。
残業における割増賃金には、働く時間・曜日によって①時間外労働、②休日労働、③深夜労働に分けられ、割増率が決められます。
①時間外労働:法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働いた場合は通常賃金の1.25倍
→会社が決めた労働時間が8時間以内の場合(9時〜17時(休憩1時間)の7時間勤務など)など、法定内残業の場合は、割増賃金は支給されません。
②休日労働:週1日、4週に4日の法定休日に働いた場合は通常賃金の1.35倍
→会社独自の休日に働いた場合は、休日労働とはならず割増率は1.25倍です。
③深夜労働:22時〜翌朝5時までの時間帯に働いた場合は通常賃金の(1.25+0.25)倍
→1日の法定労働時間を超えて時間外労働となり、そのまま深夜業務になった場合は、時間外労働の1.25倍に深夜労働の0.25倍を加えた1.5倍となります。
単に深夜勤務を行った場合の割増率は1.25倍です。
1ヶ月60時間超の時間外労働は、割増賃金率が1.5倍に引き上げ
さらに、会社は社員に「1ヶ月60時間を超える時間外労働」をさせた場合には、5割以上(1.25倍)の割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法第37条第1項ただし書き)。
1ヶ月の起算日から時間外労働の時間を累計して、60時間を超えた時点から時間外労働の割増率が1.25倍から1.5倍。深夜業務を行った場合は、時間外労働1.5倍+深夜業務0.5倍で割増賃金率が1.75倍となります。
なお、法定休日に休日労働した場合の時間数は「1ヶ月60時間」の算定に含めなくても問題ありません。
また、1ヶ月間の時間外労働が60時間を超えた場合は、割増賃金の支払いに代えて有給休暇を与える「代替休暇」を与えることもできますが、代替休暇を実施する場合には「労使協定」を締結する必要があります。
この代替休暇は、取得を義務付けるものではありません。代替休暇を取得するかどうかは、労働者の意思によります。
①月60時間超の場合 | 深夜に及ぶ場合 | |
時間外労働 | 50%以上 (25%以上) | ①+25%以上=75%以上 (①+25%以上=50%以上) |
休日労働 | 35%以上 | ①+25%以上=60%以上 |
深夜労働 | 25%以上 | ー |
※1ヶ月間の時間外労働の累計により時間外労働の割増率は2パターンが適用となる
この「月60時間超の割増賃金」は、2010(平成22)年4月より大企業については施行されていましたが、2023(令和5)年4月より、会社の規模を問わず中小企業などすべての企業において実施されます。
働き方改革「2024年問題」とは
会社は社員に対し「当然のように」残業(時間外労働)を命じることはできません。
それは、労働基準法第32条で1日の労働時間は休憩時間を除いて1日8時間、1週間40時間と定められているからです。
社員に時間外労働を命令するためには、労働基準監督署に届出を行う必要があります。この届出は、労働基準法第36条に規定されているため「36協定」と呼ばれています。
この「36協定」を結ぶことで、1ヶ月45時間、1年に360時間までの時間外労働が可能となります。
さらに、「特別な事情」があり36協定の限度を超えて時間外労働を行う必要がある会社は「特別条項」を結ぶことで、1年に6回までなら原則的な限度時間を超えて「上限なく時間外労働」を命令することが可能でした。
しかし、時間外・休日労働を抑止するため、2019(平成31)年4月の労働基準法改正により、以下のとおり、特別条項の要件が厳格化されています。
① 2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月の期間のいずれにおいても、月平均80時間以内(休日労働を含む)
② 1ヶ月に延長できる時間外労働→100時間未満(休日労働を含む)
③ 1年に延長できる時間外労働→720時間未満(休日労働は含まず)
④ 特別条項を発動できる月数→最大1年で6ヶ月まで
この「厳格化」は、「長時間労働が日常化」しているなどすぐの対応が困難な業界では実施が猶予されていましたが、2024年4月で猶予措置が廃止となります。
これが、働き方改革の「2024年問題」であり、特に話題となっているのが「運送業界」と「医療業界」です。
運送業界では、「厳格化」により時間外労働に規制が行われ労働時間が短くなれば「1人のドライバーが1日に運べる荷物の量」が減ることになります。
1日で同じ量の荷物を運ぶためには「ドライバーの確保」が必要となりますが、そうすると運送コストが増加するので、運送料の値上げは避けられません。
この運送業者の「値上げ」は、荷主の物流コストの増加につながるため「送料無料」や「当日発送」のサービス維持が難しくなることが予想されます。
医療業界において「特別条項の猶予措置」の対象となっている職種は、「医師」です。
救急対応を行なっている多くの病院(特に地方の中小病院)では、慢性的に医師(勤務医)が不足しています。
勤務医は救急対応、手術、外来対応や感染リスク、病院からの緊急呼び出しなどストレスの多い職種です。病院はストレスを軽減するため、事務作業などを他の職種にタスクシフトするなどの業務改善に取り組んでいますが、「医師にしかできない業務」が多いため限界があります。
健康確保措置の実施が義務付け
使用者には「特別条項を適用する労働者」に対し、健康確保措置を実施しなければなりません。
労働安全衛生法(安衛法)では「長時間労働発生時の医師による面接指導」が規定されており、安衛法66条の8では、「強制義務」として月80時間超の残業を行なった疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合は、医師による面接指導を実施するよう定めています。
さらに、安衛法66条の9では「努力義務」が定められており、時間に関係なく健康への配慮が必要な労働者については対策を講じるよう求めています。
参考:働き方改革❗️面談制度の導入とメンタルヘルス対策について
まとめ
M&Aや業務提携が加速する
2023年からの「割増賃金の引き上げ」、2024年の「時間外労働の上限規制の適用」など「働き方改革」はコロナ禍にあっても、計画とおり進行しています。
人口減少社会に突入している日本では、どの業界も人手不足。今までと同じように「手間」と「時間」をかけて仕事を続けていれば、同レベルのサービスを提供することが出来なくなります。
そのため、各業界では「ITの活用」や「M&Aや提携などによる業界再編」などの動きが活発です。
従業員数が減る中で労働者の労働環境を守るためには、コストがかかる(IT技術の導入や人手の確保など)対策が必要となるため、資金力がない会社では対応が困難になるからです。
医療業界においても、約440の公立・公的等病院の地域で果たしている役割の検証を行い、必要に応じて機能分化や再編・統合が行われています。
私たちの日常生活にも、業界の再編・統合で生活が一時的に不便になったり、値上げなどの影響があるかもしれません。2060年頃まで続く「人口減少トレンド」の影響を意識した生活が求められています。
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