面談制度と労働時間把握義務が強化
2019(平成31)年4月、働き方改革に関連して労働安全衛生法が改正されました。
労働安全衛生法とは、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を維持することを目的とした法律です。
今改正により、労働者の面接指導が強化されています。
いままでも、ストレスチェックにより「高ストレス者」と判断された場合には面接指導を実施していましたが、新たに月80時間超の時間外・休日労働を行なった労働者で、本人が面接指導を希望した場合であっても、面接指導を受けさせることが義務化されました。
今回は、労働安全衛生法改正で強化された労働時間把握義務と面接指導、それに伴う会社の対応などについて、まとめてみます。
強化された労働時間把握義務と医師面談制度
長労働時間の把握は客観的な方法で!
会社は、労働者の労働時間を適正に把握するため、労働日ごとに始業・終業時刻を確認し、記録しなければなりません。
労働時間の把握は、タイムカードによる記録、パソコンのログ記録など客観的な方法である必要があります。
なお、労働時間の記録に関する書類については、3年間の保管が義務付けられています。
時間外80時間超で医師による面接指導を義務化
会社は、1ヶ月80時間を超えて時間外・休日労働を行なった労働者がいた場合、当該労働者に対し、時間外・休日労働が80時間を超えたことや面接指導を受けられることなどを、当該労働者に通知しなければなりません。会社は「見て見ぬ振り」はもちろん、「知らなかった」も許されません。
通知したあと、労働者が面接指導を希望した場合には、医師よる面接指導を行い、当該医師から必要な措置について意見聴取を行う必要があります。
この「面接指導」は、36協定の時間外労働の上限である45時間を超えた場合においても、実施することが望ましいとされています。
そのため会社は、全労働者の労働時間を日・月・年ごとに管理・把握できるようにしておく必要があります。
なお、面接指導の結果記録の保管義務は、5年間保管です。
面接指導実施後の措置について
会社は長時間労働を是正する必要あり
会社は面接指導の実施後、面接を行なった医師から、労働者の健康確保のための措置についての意見を聞く必要があります。
この「健康確保のための措置」とは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜労働回数等の削減などが考えられます。
また、労働者がメンタルヘルスの不調を訴えた場合には、必要に応じて精神科医等と連携しながら対応を図る必要があります。
面接指導を実施しなかったときは、50万円以下の罰金が科せられます。
企業が行なっているメンタルヘルス対策
長時間労働は、労働者の脳や心臓疾患のリスクを高めるだけでなく、うつ病やメンタルヘルス不調の原因にもなるため、対策が強化されました。
労働安全衛生法では、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止し、働きやすい職場づくりを目指すことを目的に、ストレスチェックの実施を義務付けています。
ストレスチェック
ストレスチェックとは、労働者のストレスの程度を把握し、メンタル不調を未然に防ぐことを目的に制定された制度(労働安全衛生法第66条の10)。
常時50人以上の労働者を使用する会社では、年に1回、産業医や保健師によるストレスチェックを実施することが義務付けられています。
常時50人以上の労働者の基準について
「常時 使用している労働者が50人以上いるかどうか」の 判断は、ストレスチェックの対象者のように、契約期 間(1年以上)や週の労働時間(通常の労働者の 4分の3以上)をもとに判断するのではなく、常態と して使用しているかどうかで判断することになります。
したがって、例えば週1回しか出勤しないような アルバイトやパート労働者であっても、継続して雇 用し、常態として使用している状態であれば、常 時使用している労働者として50人のカウントに含め ていただく必要があります。
2015(平成27)年5月12日「厚生労働省ストレスチェックQ&A Q0-13,Q19-10関係より」
会社は、ストレスチェックで「高ストレス者」と判定された労働者から申し出があった場合は、産業医などの面接指導を実施しなければなりません。長時間労働者へ実施する「面接指導」も、このストレスチェック後の「面接指導」と同様の取り扱いが、求められます。
ストレスチェックは年1回、長時間労働者への面接指導はその都度の実施となりますので、長時間労働を放置しておくと、企業への負担は大きなものとなります。
会社には、「長時間労働をさせない仕組みづくり」を率先して行う必要があります。
なお、従業員50人以上の会社には、ストレスチェックと面接指導の実施状況の報告を義務付けており、怠った場合は50万円以下の罰金が科せられます。
有給休暇の取得強化
労働基準法においても、労働者の心身のリフレッシュの強化を図る目的で、年次有給休暇の取得に対して法改正が行われています。
年次有給休暇は「労働者が請求する」ことが原則とされていますが、低調な取得率が課題となっていました。
このため2019(平成31)年4月、年10日以上の年次有給休暇が付与されている労働者(管理監督者を含む)に対し、「年5日」を基準日*から1年の間に、使用者は時季を指定して取得させるよう法改正が行われました。
*基準日とは、有給休暇を従業員に付与する日のこと
使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなり ません。
有給休暇を「年5日」取得させることができなければ、労働者1人につき30万円以下の罰金が科せられます。
まとめ
メンタルヘルス対策は企業の安全配慮義務
会社には、労働者が安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮を行う義務をおっています。これを「安全配慮義務」といい、違反した場合には、
・不法行為(民法709条)
・使用者責任(民法715条)
・債務不履行(民法415条)
の民法上の責任を問われ、損害賠償金や慰謝料が請求される可能性があります。
「働き方改革」によって、会社には罰則が強化されるなど、その責任は厳格なものになっています。なお、労働者にも「自己保健義務」が課せられているため、自身の健康管理を積極的に行い、会社の取り組みに協力しなければなりません。
法令違反の状態は、直ぐに改善するのは当然のことです。
しかし、長年続いた「職場の問題」を急に改善しようとすると、会社も労働者にもシンドイことになることも。しかも、「場当たり的な対策」では長続きせず、労働者の不満がさらに募ることになりかねません。
労働者のメタルヘルス不調を減らす取組み(=職場環境の改善)は、休職や離職防止による生産性の向上だけでなく、この取組みが口コミ等で評判になることで人材が集まりやすい会社になる可能性があります。
「三方よし」の精神で、法令を遵守しながら労働者の声に耳を傾け、計画的・継続的に快適な職場環境づくりに取り組む。
会社は、少子高齢化など厳しい時代を乗り切り安定して事業を行うためには何を優先して行うべきか?
「働き方改革」への対応は、それぞれの会社でテーマを決め、その実現に従業員も参加させることでストーリー性を持たせながら、継続的に取り組む必要がありそうです。
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