確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の受け取り方には、「年金」、「一時金」、「年金と一時金の組み合わせ」の3種類があります。
「一時金」で受取る場合は「退職金」扱いとなるため、「退職所得控除」の対象となり、税金の負担が軽く済みます。
しかし、退職所得控除には「5年ルール」というルールがあり、受取る順番を間違うと、会社から給付される退職金の「退職所得控除」が受けられなくなるので、注意が必要です。
今回は、退職所得控除の「5年ルール」と確定拠出年金や退職金の「受取り方による税金の違い」について、まとめてみます。
退職所得控除とは
企業型DC・iDeCo(イデコ)も「退職所得控除」の対象
退職手当には、確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)などを一時金で受け取る場合も該当します。
退職手当は「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで、「退職所得控除」が適用され、税金の負担が大幅に軽くなるようになっています。
参考:退職金は「一時金」それとも「年金型」?お得な退職金の受け取り方について
ちなみに、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しない場合は、20.42%(退職金に所得税と復興特別所得税)が源泉徴収されることになります。
退職所得の計算方法
退職所得 =(退職手当ー退職所得控除額*)×1/2
退職所得控除額*
・勤続年数20年以下の場合:40万円*勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
・勤続年数20年超の場合:800万円+70万円×(勤続年数ー20年)
たとえば、35歳から65歳まで30年間勤務したAさんの退職所得控除額は
800万円+70万円×(勤続年数ー20年)だから、
=800万円+70万円×(30年ー20年)=1,500万円になります
退職金が1,500万円だったら、税金が引かれないってこと?
退職金が1,500万円であれば、税金の負担はありません
あと、勤続年数に端数がある場合は「1年」に切り上げて計算します
じゃぁ、勤続年数が20年1ヶ月みたいに「1年未満の月数」の場合は?
勤続年数を「21年」として計算します。
具体的な計算は、
800万円+70万円×(21年ー20年)=800万円+70万円なので、退職所得控除額は「870万円」です。
退職金を「一時金」として受け取る場合、
①非課税枠の大きい
②社会保険料がかからない
というメリットがあります。
「退職所得控除」には、「5年ルール」という仕組みがあります。
「一時金」で退職手当と確定拠出年金(DC・iDeCo)を受け取る人は、このルールを上手く活用すれば、さらに税制上有利に退職手当を受け取ることが可能です。
退職金の5年ルールとは
確定拠出年金を退職金より5年以上前に一時金で受け取る
退職所得控除には、「5年ルール」という仕組みがあります。
退職金を受け取る前4年以内に確定拠出年金を一時金で受け取った場合には、それらの勤続年数(加入年数)の重複期間を除いて退職所得控除を計算するというルールです。
つまり、5年以上の期間を空けて退職金を受け取れば勤続年数に調整が入らないので、税制上有利に受け取ることができるということになります。
では、先ほどのAさん(35歳から65歳まで30年間勤務)が、退職するケースを例に考えてみましょう
・Aさんは、35歳のときに入社。30年間勤務して65歳で退職
・会社の退職金制度から退職手当として1,600万円
・イデコには50歳から60歳まで10年間加入して、受け取れる一時金が300万円
だった場合です
⭕️ iDeCo → 退職金の順番で受け取った場合
退職所得控除の「5年ルール」が適用される
① 60歳でイデコを解約し300万円を一時金として受け取る →② その後 65歳で定年退職し会社の退職金1,600万円を受け取る場合
① 60歳でイデコの一時金300万円を受け取ったときの所得税
・イデコの退職所得控除額=40万円×10年(加入年数)=400万円
・イデコの受取額300万円に対して、退職所得控除が400万円のため税金はかかりません
② その後、65歳で退職金(1,600万円)を一括で受け取るときの所得税
先にイデコ(300万円)を一括で受け取ってから5年以上が経過しているため、退職所得控除の制限(重複期間の調整)はありません
・退職手当の退職所得控除=800万円+70万円×10年=1,500万円
・(退職金)1600万円ー(退職所得控除)1,500万円=100万円×1/2=50万円
・50万円×5%(所得税の税率)=25,000円
つまり、企業型DCやiDeCoを一時金で受ける場合は、退職金より5年以上前に受け取ればお得ですよということです。
❌ 退職手当 → iDeCoの順で受取った場合
退職所得控除の「5年ルール」が適用されない
先に、退職金制度の退職手当(1,600万円)を先に受け取ると、「5年ルール」適用されず、前年以前19年以内に他の退職金がある場合は、退職所得控除の重複分が差し引かれてしまいます。
つまり、後から受け取るiDeCの加入期間は、先に受け取った退職手当の勤務期間と重複するため、退職所得控除の対象期間から除外されてしまいます。
① 65歳で退職金(1,600万円)を受け取り →② 70歳でiDeCo(300万円)を受け取った場合
① 65歳で退職金を受け取るときの所得税
退職手当控除=800万円+70万円×10年=1,500万円
1600万円ー1,500万円=100万円×1/2=50万円
50万円×5%(所得税の税率)=25,000円
② 70歳でイデコ(300万円)を一括で受け取るときの所得税
先に退職金を受け取っているため、その後19年間は雇用期間とイデコ加入の重複期間は、退職所得控除を受けることができません
退職所得控除の期間は、定年で退職金をもらった65歳から、70歳でイデコを一時金で受け取る5年間となります
退職手当控除=40万円×5年=200万円
(300万円ー200万円)×1/2=50万円
50万円*5%(所得税の税率)=25,000円
「5年ルール」が受けられない場合は、25,000円+25,000円=50,000円の所得税を納めることになります。
「5年ルール」が適用されたときの税額が「25,000円」だったので、退職所得控除が受けられない場合(5年ルールの適用外)では税金を多く納める必要があります。
「年金方式」で受け取る場合も税優遇あり
年金方式で受け取っても「税優遇」はある
退職手当が退職所得控除より多い場合は、「年金型」と併用するのがお得の場合もあり
確定拠出年金を年金形式で受け取る場合は、「公的年金控除」を受けることができるます。
公的年金控除は、65歳未満の人なら年間60万円、65歳以上の人なら110万円まで税金がかからない仕組みです。この制度を上手に活用すれば、65歳までで最大300万円の控除が受けられます。
退職手当や確定拠出年金にかかる税金の「控除」を知ることは、「老後の資金づくり」を計画するうえで欠かせないポイントになります。
まとめ
会社の退職金制度による退職手当と確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の両方がある会社では、退職手当の受け取る順番が違うと税額が変わることになるため、注意が必要です。
確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)を利用している人で「一時金での受取り」を考えている人は、「確定拠出年金を5年以上先に受け取れば、退職金を計算するときの退職所得控除がフルに活用できる(勤続年数に調整がはいらない)」ことを覚えておいてください。
また、受け取れる退職金と確定拠出年金の合計額が退職所得控除の額を超える場合は、確定拠出年金を60歳から「年金方式」での受け取れば、公的年金等控除が受けられるので有利に受け取れる場合があります。
参考:退職金は「一時金」それとも「年金型」?お得な退職金の受け取り方について
定年退職前に、退職金や確定拠出年金額を計算し、「損」をしない受取り時期や方法を想定しておくことをおすすめします。
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