定年退職が近づくにつれ、少しづつ気になりだすのが退職金。
退職金や確定拠出年金(企業型DCやiDeCo「イデコ」)の一時金には、所得税がかかります。
ただし、どちらも「退職所得控除」の対象の一時金ですので、大きな金額が控除されます。控除とは、課税の対象となっている金額(この場合なら退職金)から、差し引く金額のこと。
退職所得控除は、勤続年数や確定拠出年金の加入年数が長いほど控除の金額が大きくなるので、上手に利用したいものです。
今回は、確定拠出年金を利用している人が定年退職するとき、会社からの退職金をどのように受け取ればお得なのか?について、まとめてみます。
「退職所得控除」の概要
確定拠出年金は、10年以上の加入期間があれば、60歳になった時点で受け取ることができます。
確定拠出年金の受け取り方法には、①「一時金」②「年金」③「一時金と年金の組み合せ」という、3つの受け取り方法がありますが、そのうち①・③の「一時金」で受け取る場合に退職所得控除が適用されます。
退職所得控除の計算方法
「所得」とは、「収入」から「必要経費」を差し引いて残った金額のこと。退職金の場合は、「収入」にあたる退職金から差し引く「必要経費」が「退職所得控除」となります。
所得 =収入(退職金)ー 必要経費(退職所得控除)
課税対象となる退職所得を計算するには、まず退職所得控除額を計算する必要があり、勤続年数や確定拠出年金の加入期間が長いほど控除額が大きくなります。
勤続(加入)年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続(加入)年数(最大20年=800万円) (80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続(加入)年数-20年) |
たとえば、勤続年数25年、受け取った退職金が2,500万円であった場合の退職所得は、以下のとおりとなります。
【 退職所得の計算方法 】
退職所得=(退職金収入-退職所得控除額)×1/2
最初は、「退職所得控除額」の計算です
800万円+70万円×(25年-20年)=1,150万円(退職所得控除額)
次に、「退職所得」の計算を行います
(2,500万円-1,150万円)×1/2=675万円(退職所得)
この場合の課税対象(退職所得)は、675万円です。
このように、企業型DCやイデコも「加入年数」が長いほど節税効果が大きくなります。
退職金と老齢給付一時金の「同時受取り」は不利⁈
退職金と老齢一時金を同時に受け取ると「退職所得控除」が一本化される
ここで注意が必要なのは、退職金と老齢給付金の一時金(老齢給付一時金)を同時に受けた場合の退職所得控除は、それぞれを別々に計算しないというところです。
「勤続年数」か「確定給付年金の加入期間」のどちらか長い方の年数を使って計算されます。
例えば、「勤続年数が30年、イデコの加入年数が20年」の人の退職所得控除額の計算は、「勤続30年」を用いて計算されます。
このように、それぞれで退職所得控除が計算されず一本化されてしまうと、受け取る退職金と老齢給付一時金の合計額が退職所得控除額をオーバーしてしまい、税金を納める可能性が高くなってしまうのです。
では、節税できる有利な受け取るにはどうしたら良いのでしょうか?
それは、「イデコ(子)ファースト」。老齢給付一時金を受け取った5年後に退職金を受け取ると、それぞれの年数に応じた退職所得控除を計算することができます。
気をつけたい退職金の「5年ルール」
退職所得控除には、「5年ルール」と呼ばれるものがあります。
たとえば、60歳でイデコを一時金で受け取り、63歳で退職金を受け取るなど老齢給付一時金を5年以内に受け取っていた場合では、63歳に支払われる退職金の控除額を計算の際には、退職金の基礎となる雇用期間と確定拠出年金の加入期間の重複する期間は差し引いて計算されるというルールです。
逆に、5年以上空けて退職金を受け取ることができれば、それぞれの加入期間で退職所得控除が利用できます。
つまり、60歳でイデコなどの老齢給付一時金を受け取った後に65歳で退職金を一括で受け取る方法だと退職所得控除をフルに活用できます。
ちなみに、確定拠出年金を一時金で受け取れる期間は、60歳から75歳までの間と決まっています。
逆に、「退職金を受け取り、次に老齢給付一時金を受け取った場合」は、「19年ルール」が適用されます。
確定拠出年金(老齢給付一時金)の「19年ルール」
会社からの退職金を受け取ってから「19年以内」に老齢給付一時金を受け取った場合には、確定拠出年金の加入期間から重複する勤続年数が差し引かれ、退職所得控除額が計算されます。
イメージとしては、30歳からイデコを運用している人が60歳で定年退職となり、会社から一時金で退職金を受け取り、その次に65歳でイデコを一時金で受け取る場合は、イデコの加入期間と重複していない5年間だけが退職所得控除の計算の基礎になる、というものです。
なお、55歳で退職して会社からの退職金を受け取り、75歳でイデコから一時金を受け取れば、間隔が20年以上となるので、イデコも加入年数に応じた退職所得控除が使えることになります。
シミュレーションを行ってみる!
このように、退職金と確定拠出年金を一時金で受け取る場合は、受け取る順番によって「5年以内ルール」や「19年以内ルール」が適用され、退職所得控除の金額が変わってきます。
では、具体的にどのくらい差がでるのか、計算してみます。
●シミュレーションの条件
条件は、
・退職金:2000万円(源泉徴収なしの金額)
・勤続年数:30年
・イデコの一時金(老齢給付一時金):500万円
・イデコの加入年数:20年(すべての加入期間が勤務年数と重複)
働きながら確定拠出年金(企業型DCやイデコ)で運用しいていた会社員、ってイメージだね。
●60歳で退職金・イデコの「一時金」を同時に受け取った場合
退職所得:(2000万円+500万円-1500万円)×1/2=500万円
※退職所得控除(30年)=800万円+(70万円×10年)=1500万円
所得税額:500万円×20%-42万7500円=57万2500円
同時受け取りでも「退職所得控除」があるから、税金は軽くはなっているけど、それでも旅行一回分は税金で引かれるのか…
会社に在籍していた期間とイデコの加入期間が重複しているので、期間の長い「勤続年数30年」を用いて退職所得控除が計算されます。
結果、退職金と老齢給付一時金の合計額が退職所得控除の金額を大きく超えてしまい、結構な所得税が発生します。
●60歳でイデコの「一時金」、65歳で退職金を受け取った場合(イデコファーストの場合)
・イデコの一時金
退職所得:(500万円-800万円)×1/2=0円
※退職所得控除(20年)=40万円×20年=800万円
所得税額:0円
・退職金
退職所得:2000万円−1500万円×1/2=250万円
※退職所得控除(30年)=800万円+(70万円×10年)=1500万円
所得税額:250万円×10%-9万7500円=15万2500円
所得税額の合計:15万2500円
イデコファーストが出来れば、だいぶ負担が軽くなるんだね〜
でも、退職金が65歳で支給される会社でないと、使えないね。
次は、60歳で退職金を、イデコからの老齢給付一時金を引き伸ばして75歳で受け取るケースについて考えます。
●60歳で退職金、65歳でiDeCoの「一時金」を受け取った場合
・退職金
退職所得:(2000万円−1500万円)×1/2=250万円
※退職所得控除(30年)=800万円+(70万円×10年)=1500万円
所得税額:250万円×10%-9万7500円=15万2500円
・イデコの一時金
退職所得:500万円-600万円=0万円
※退職所得控除(15年)=40万円×15年=600万円
(退職から75歳までの重複していない期間)
所得税額の合計:15万2500円
退職金が60歳で支給される会社でも、イデコの受け取りをズラすことで「お得」に受け取る方法があるのか‼️
でも、老齢給付一時金の受け取れる金額が、600万円を超えるときは計算結果も変わってくるので、「自分が受け取れる額」を当てはめて一番お得な受け取り方を考えてみてね。
企業型DCやイデコからの「一時金」を会社からの退職金より先に受け取れば、両方同時に受け取る場合と比べて所得税が大きく減ることがわかります。
会社で退職金を受け取る時期が就業規則で決まっていてずらせない場合は、老齢給付一時金をできるだけ後に受け取ると節税になりいいでしょう。
まとめ
イデコなど「確定拠出年金の一時金が先、勤務先等からの退職金が後(イデ子ファースト)」の場合は、5年間空けることができれば退職所得控除に制限はかかりません。
一方、「勤務先等からの退職金の支給が先、確定拠出年金の一時金が後」の場合、退職所得控除の調整対象期間が「19年間」と長期間になりますが、2回目の受け取りまでのできるだけ長く間隔を開けることができれば、節税効果が期待できます。
2回目の退職金を受け取る時に退職所得控除が減額される場合
2回目の退職金が、
退職一時金・・・前年以前4年内
確定拠出年金(一時金)・・・前年以前19年内
今回受け取る退職金の、「前年以前4年間(確定拠出年金の老齢給付金を受給した年分は前年以前19年間)に他から支払われた退職手当等がある場合には、本年分の退職手当等の勤続期間と前年以前に支払われた退職手当等の勤続期間とが重複する期間の年数(1年未満の端数は切り捨てます。)に基づき計算した退職所得控除相当額を控除した残額が退職所得控除額となります。」(国税庁:タックスアンサーNo.2735)
つまり同じ5年後でも、
確定拠出年金(一時金)を受け取った後、5年後に会社から退職金を受け取れれば、退職所得控除の計算に調整(減額)されない。
他方、会社から退職金を受け取った5年後に確定拠出年金(一時金)を受け取る場合では、重複する期間は調整(減額)される。
なお、イデコなどの老齢給付一時金が退職所得控除の金額を超えてしまう場合では、退職所得控除と同額を「一時金」で、超える分を「年金」で受け取ることにすれば、節税効果が上がる場合があります。
参考:退職所得控除の「5年ルール」とは❓後悔しない確定拠出年金の受け取り方
ただし、「年金」で受け取る場合は、受取り後の運用がうまくいかないと受け取れる金額が減ってしまうこともあります。
受け取り時期や受け取り方の組み合わせは、他にもいろいろあります。定年退職までに、自分のライフスタイルに合った「お得」な受け取り方を探してみるのがいいのではないでしょうか。
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