2022(令和4)年4月、年金制度が改正されました。
主な変更は4つ
①繰上げ受給の減額率が「0.5%」から「0.4%」に引き下げられたこと。
② 繰下げ受給の上限が75歳まで引き上げられ、受給額が最大84%アップになったこと
③ 厚生年金加入のハードルが引き下げられ、被保健者が101人以上の企業で週の勤務時間が20時間以上の短時間労働者も年収が106万円以上などの要件を満たせば、加入可能となったこと
④ 60歳以上65歳未満で老齢厚生年金をもらいながら厚生年金に加入して働く人の在職老齢年金の支給停止の基準額が「28万円」から「47万円」に緩和されたこと
※2023(令和5)年4月から在職老齢年金制度の基準額は47万円から、48万円に改定されます。
「在職老齢年金」とは、60歳以降も働きながら年金を受け取る人で、給料(総報酬月額相当額)と年金(月額)の合計額が月「47万円」を超えると年金の一部または全部が支給停止されるという制度です。
改正前の基準額は、「特別支給の老齢厚生年金(特老厚)」がもらえる60〜64歳の人と65歳以上の人で金額に違いがあったため、働きながら年金をもらっている多くの人が「減額ルール」に該当してしまうため、「働き損になる💢」として非常に評判の悪いルールでした。
この「働き損問題」を解消させ高齢者の労働意欲を高めることを目的に、60〜64歳の人の支給停止基準を「月28万円」から「月47万円」への引き上げを実施。働きながら年金をもらっている65歳以上の人の支給停止基準と「同額」になりました。
今回は、支給停止の基準が引き上げられた「在職老齢年金」のルールや注意点などをまとめてみます。
「在職老齢年金」とは
60歳以降、働きながら受け取る年金のこと
在職老齢年金とは、60歳以降も厚生年金に加入し働きながら受給する老齢厚生年金のこと。
しかし、働きながらも年金が受給できるこの在職老齢年金は、給料と年金の合計が月47万円を超えると、年金が支給停止されます。
なお、在職老齢年金による支給停止の対象となるのは「老齢厚生年金」。老齢厚生年金は支給停止の対象にはなりません。
◯ 在職老齢年金による調整後の年金支給月額
・基本月額*と総報酬月額相当額**との合計額が47万円以下の場合→ 全額支給
・基本月額と総報酬月額相当額との合計額が47万円を超える場合→ 基本月額ー(基本月額+総報酬月額相当額ー47万円)➗2
*「基本月額」とは、老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
**「総報酬月額相当額」とは、毎月の賃金(標準報酬月額)+その月以前の1年間の賞与(標準賞与額)を12で割った額
支給停止の額が受給できる年金額(基本月額)を超える場合は、年金が全額支給停止され「加給年金」も併せて支給停止となります。
年金額が月10万円、給料が月41万円(標準報酬月額も同額)の場合、減額される年金額は、
(10万円+41万円ー47万円)÷2=2万円
そのため、毎月の年金から2万円減額されるので、
8万円(10万円ー2万円)になるんだね。
年金額が月10万円、給料が57万円の場合だと、
(10万円+57万円ー47万円)÷2=10万円が年金の支給停止額。
年金月額10万円ー支給停止額10万円だと0円になるので、年金は全額支給停止ってことか
支給停止額の引き上げで恩恵を受けるのは、特別支給の老齢厚生年金(特老厚)受給者
現在の老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)は、原則65歳から受給できますが、これは2000(平成12)年の法律改正で、老齢厚生年金の支給開始年齢がそれまでの60歳から65歳に引き上げられることになったからです。
年金開始年齢の引き上げは、男性は、2013(平成25)年度から2025(令和7)年度にかけて、女性は支給開始年齢が男性より5歳低く設定されていたため、男性の5年遅れの2018(平成30)年度から2030(令和12)年度までの期間をかけて、65歳受給への変更が行われています。
65歳以前に年金の受給ができる最後の世代は、男性が1961(昭和36)年4月1日以前生まれの人、女性は1966(昭和41)年4月1日以前生まれの人。
この60歳〜65歳までに受給できる年金を「特別支給の老齢厚生年金(特老厚)」といい、「在職老齢年金減額ルール」の対象となる人は「特老厚」の受給者になります。
特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受け取れる人
男性 | 女性 | 特老厚の受給開始年齢 |
1953(昭和28)年4月2日〜1955(昭和30)年4月1日 | 1958(昭和33)年4月2日〜1960(昭和35)年4月1日 | 61歳 |
1955(昭和30)年4月2日〜1957(昭和32)年4月1日 | 1960(昭和35)年4月2日〜1962(昭和37)年4月1日 | 62歳 |
1957(昭和32)年4月2日〜1959(昭和34)年4月1日 | 1962(昭和37)年4月2日〜1964(昭和39)年4月1日 | 63歳 |
1959(昭和34)年4月2日〜1961(昭和36)年4月1日 | 1964(昭和39)年4月2日〜1966(昭和41)年4月1日 | 64歳 |
在職老齢年金が減額になると、高年齢雇用継続給付も減額
定年退職をした後に継続雇用で勤務した場合などでは、給料は大幅にダウンするのが一般的です。
定年退職で下がった給料をカバーする制度として雇用保険の高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金・高年齢再就職給付金)があります。
高年齢雇用継続給付とは、雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者に対して、賃金額が60歳到達時の75%未満となった方を対象に、最高で賃金額の15%を支給するものです。
しかし、「在職老齢年金減額ルール」が適用され年金が支給停止になった人が高年齢雇用継続給付を受けている場合は、さらに最高で給料(標準報酬月額)の6%が減額されます。
60歳時点の給料が30万円だった人が、給料が月15万円(標準報酬月額も同額)となり雇用継続制度を利用して継続勤務。特老厚は月10万円、さらに高年齢雇用継続基本給付金を申請した場合の月収入を試算してみます。
・在職老齢年金の支給調整=15万円+10万円=25万円
→25万円<47万円のため、在職老齢年金は支給調整はなし
・高年齢雇用継続基本給付金=15万円×15%=22,500円
・特老厚の支給停止額=15万円×6%=9,000円
→特老厚と高年齢雇用継続給付金を併給しているため、9,000円が支給停止
・毎月の収入は、15万円(月給)+10万円(特老厚)+22,500円(高年齢雇用継続)ー9,000円(支給停止額)=263,500円
減額されるけど、本来もらえる25万円より「毎月13,500円」多く受け取ることができるのか
「減額されるくらいなら働かない方が良い」は本当か?
特老厚の減額率より高年齢雇用継続基本給付の支給率の方が上
特老厚の減額率は「6%」。
高年齢雇用継続給付の支給額は、給料の「15%」。
特老厚の減額分は、受け取る高年齢雇用給付の増額分を上回ることはないので、「働き損」にはなりません。
高年齢雇用継続給付と特別支給の老齢厚生年金の関係
60歳時点から比べた給料 の低下割合 | 高年齢雇用継続給付 の支給割合 | 特別支給の老齢厚生年金 の支給停止割合 |
75%以上 | 0% | 0% |
74% | 0.88% | 0.35% |
73% | 1.79% | 0.72% |
72% | 2.72% | 1.09% |
71% | 3.68% | 1.47% |
70% | 4.67% | 1.87% |
69% | 5.68% | 2.27% |
68% | 6.73% | 2.69% |
67% | 7.80% | 3.12% |
66% | 8.91% | 3.56% |
65% | 10.05% | 4.02% |
64% | 11.23% | 4.49% |
63% | 12.45% | 4.98% |
62% | 13.70% | 5.48% |
61%未満 | 15% | 6% |
60歳以降も働き続ければ年金はアップ
在職老齢年金が受給できても「働いた方が有利」となるもう一つの理由は、60歳以降も働くことで受け取る年金が増えるからです。
年金の増額分を把握するためのざっくり計算式
年金の増加分(年収)=雇用継続時の年収(百万円)✖️5500✖️働く年数(年)
【例】
定年後に年収180万円(月15万円)で5年間働いた場合
・1.8百万円✖️5500✖️5年=49,500円
老齢厚生年金が年間だと「ざっくり」49,500円増、5年分だと247,500円増額になります。
まとめ
働き続けた方がメリットが大きい
60歳以降に年金を受け取りながら働くと、「在職年金減額ルール」により年金が減額される場合はありますが、働きながら厚生年金保険料を納めれば、その後の老齢厚生年金の受取額がアップします。
老後資金を増やす方法としては、「長く働く」、「副業などで収入を増やす」、「繰下げ支給を申請する」などの方法もあります。
参考:老後の安心❗️繰上げ・繰下げルールが改正/失敗しない老齢年金の受取り方について
受け取る年金を増やしたいと考えている人は、自分の定年後に合った方法を考え、早くから準備しておくことが大切です。
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