フレックスタイム制度とは、あらかじめ総労働時間(1ヶ月なら1週40時間以内、1ヶ月最高177時間)を定めておき、社員は総労働時間を満たすよう自ら出勤時間を決めることで、労働時間を配分する働き方のことです。
残業時間についても、原則は「1日8時間超」「週の40時間超」でカウントするのに対し、フレックスタイム制度では、「月の単位」(月ごとの法定労働時間)で行うことになっています。
しかし、会社としては、社員一人ひとりが出勤時間を決めているため、「労働時間の把握」や「残業代の計算が煩雑」になるという、デメリットも。
今回は、「働き方改革」の推進により、今後導入する会社が増えてきそうな「フレックスタイム制度」について、まとめてみます。
フレックスタイム制の「勘違い」と「メリット」「デメリット」
始業・終業時間は労働者の自由裁量
新型コロナ感染症の蔓延が長期化しているため、時差出勤を行なっている会社が多いと思います。
しかし、会社が指示して「始業・終業の時間」を決めている場合は、「フレックスタイム制」ではありません。
フレックスタイム制度は、始業・終業の時刻を社員に委ねる必要があります。
そのため、事前に始業・終業の時間を「申請」させたり、「上司の許可」を必要とるケースなども、フレックスタイム制とは言えません。
メリット:精算期間の延長による柔軟な運用
精算期間が1ヶ月から3ヶ月に延長
今回の法改正によって、フレックスタイム制の精算期間の上限が1ヶ月から3ヶ月に延長されています。
これまでは、実労働時間が総労働時間に達しない場合は、
→欠勤扱いとなり賃金が控除される
→欠勤扱いとならないよう総労働時間に達するまで労働する
などの対応が行われていたため、「使い勝手」があまり良くありませんでした。
今回の法改正により、精算期間が延長されたことによって、社員は最長3ヶ月間の総労働時間の範囲内で、労働時間を調整することが可能となりした。
デメリット:勤怠管理が複雑になる
従業員ごとに「出勤・退勤時間」が異なるため、会社は、社員の労働時間を画一的に管理することができません。
また、勤務時間が固定されていれば「定時を過ぎたら残業」とみなすことができましたが、フレックスタイム制では一律には判断できず、残業代の計算も複雑になります。
今回の法改正により、精算期間が1ヶ月を超える場合には、新たに「1ヶ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと」とされ、50時間を超えて労働させた場合は、時間外労働になります。
フレックスタイム制度導入のポイント
労使で協定を締結する必要あり
フレックスタイム制を導入する場合には、労使協定の締結が必要となります。
なお、労使協定では、次のことを定めます。
(1)対象となる労働者の範囲
→ 各課・各人でも可
(2)精算期間
→ 労働者が労働すべき時間のこと、法改正により上限が1ヶ月から3ヶ月に変更
→ 精算期間の起算日
(3)精算期間における総労働時間(精算期間における所定労働時間)
1ヶ月単位 | 2ヶ月単位 | 3ヶ月単位 | |||
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精算期間の暦数 | 法定労働時間の総枠 | 精算期間の暦数 | 法定労働時間の総枠 | 精算期間の暦数 | 法定労働時間の総枠 |
31日 | 177.1時間 | 62日 | 354.2時間 | 92日 | 525.7時間 |
30日 | 171.4時間 | 61日 | 348.5時間 | 91日 | 520.0時間 |
29日 | 165.7時間 | 60日 | 342.8時間 | 90日 | 514.2時間 |
28日 | 160.0時間 | 59日 | 337.1時間 | 89日 | 508.5時間 |
(4)標準となる1日の労働時間
→有給休暇を取得した際に支払われる、「賃金の算定基礎」となる労働時間
(5)コアタイム(任意)
→労働者が、1日のうちで必ず働かなければならない時間帯
→その時間帯の開始・終了の時刻を協定で定める必要あり
(6)フレキシブルタイム(任意)
→労働者が、自らの選択により労働時間を決定することができる時間帯
さらに、精算期間が1ヶ月を超える場合は、「精算期間の起算日」を定め、労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。
【注目】完全週休2日制のフレックスタイム制
これまで、完全週休2日制の会社でフレックスタイム制を導入した場合には、1日8時間の労働をしていても、労働日数によっては、精算期間の総労働時間が、法定労働時間の総枠を超えてしまう場合がありました。
(改正前)労働日数が「23日」ある月の場合
・精算期間における総労働時間=8時間×23日=184時間
・法定労働時間の総枠=40時間÷7×31日=177.1時間
このため、「法定労働時間の総枠」を超えた7時間分(184時間ー177.1時間)については残業代を支払う必要があった。
完全週休2日制を実施している企業では、月による「曜日の巡り」や「祝日」によって、労働日数が変化します。
そのため、計算上精算期間における総労働時間が、法定労働時間の枠を超えてしまい、残業をしていないにもかかわらず、時間外労働が発生していたため、「36協定の締結」や「残業代の支払い」が必要となっていました。
今回の法改正では、この問題を解消するために、以下の改正も行なっています。
・週の所定労働日数が5日(完全週休2日制)の労働者は、労使協定を締結することによって、「精算期間内の所定労働日数×8時間」を労働時間の限度とすることが可能
これによって、完全週休2日制の会社においても、曜日の巡りなどによって想定外の「残業」が発生するという不都合が解消されます。
労働時間把握義務から見た注意点
とにかく残業の把握が煩雑!
今回の法改正により、精算期間の上限が「1ヶ月」から「3ヶ月」に延長され、月をまたいだ労働時間の調整により柔軟な働き方が可能となります。
しかし、注意点もあります。
フレックスタイム制での残業時間は、精算期間内における総労働時間の超過分です。
そのため、1日の勤務時間が法定労働時間である8時間を超過した場合でも、すぐ残業にはなりません。
精算期間が1ヶ月を超えるフレックスタイム制で残業時間が発生する場合
①1ヶ月ごとに労働時間が、週平均50時間超
②精算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間
もちろん、フレックスタイム制であっても、会社として社員の時間管理を行うことは免除されません。
深夜労働や休日労働に対しても割増の残業代は発生しますので、その時間を把握することも必要です。
精算期間が1ヶ月を超えているかいないかで、残業時間の計算方法が異なります。
特に、1ヶ月を超える期間としている場合はより複雑になります。
まとめ
フレックスタイム制は、社員に各日の出退勤時刻を労働者に委ねる制度です。
社員には、通勤ラッシュを避けることができたり、育児や病気治療、介護などと仕事の両立がしやすくなるなど、大変魅力のある制度です。
しかし、会社は各個人ごとに労働時間の把握を行うのが非常に煩雑で、時間外手当の判別にも手間が掛かる、というデメリットもあります。
2017(平成29)年1月20日に厚生労働省が、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定し、会社に対し始業・終業時間を把握し、適正に記録することを義務づけています。
その方法は、自ら現認する、またはタイムカード、ICカード、PCの使用時間の記録など客観的な記録を基礎としなくてはなりません。
すでに多くの企業では、「労務管理システムの導入」が進んでいると思います。
企業は労務管理システムのデータを活用し煩雑な業務をシステム化するなど、従業員が働き易い環境となるよう職場改善にも活かしたいものです。
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