働き方改革❗️副業・兼業時のセーフティネットはどうなっているのか?(労働保険編)

労働保険

政府は、労働者と企業のそれぞれにメリットがある働き方として2018(平成30)年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」副業・兼業」を策定し、副業・兼業を行う環境整備(セーフティネットの整備など)をすすめています。

労働者災害補償保険法(「労災保険」の正式名称)では、副業先での労災事故時の補償を「副業先の賃金」をベースに計算するのではなく、「本業」と「副業」の2事業所の賃金を合算した額で計算するように規定を整備しました。

雇用保険では、65歳以上の労働者が複数事業所で勤務した場合は、労働時間を合算して雇用保険の加入を認めています。

今回は、副業・兼業時の時間外手当の支払方法や労災保険や雇用保険などのセーフティネットの整備について、まとめてみます。

労働時間把握義務について

労働時間の原則は1日8時間、週40時間
労働基準法第32条では、労働時間の原則を以下のとおり定めています。

・使用者は労働者に休憩時間を除き、週40時間を超えて労働させてはならない。
・1週間の各日について、使用者は労働者に休憩時間を除き、1日8時間を超えて労働させてはならない。

この「1日8時間、週40時間」は法定労働時間と呼ばれており、この時間枠を超えると会社は労働者に対し残業代(割増賃金)を支払う必要がでてきます。

労働時間の通算

労働基準法第38条では、労働時間の通算について以下のとおり定められています。

・労働時間は、事業所を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用は通算する。

この条文には、「事業主が違う場合」については触れていませんが、通達によると「事業場を異にする場合とは事業主を異にする場合を含む」とされています(労働基準局長通達(昭和 23 年5月14日基発第 769 号))。

時間外手当の支給について

「本業」での勤務後に「副業」先で勤務した場合、労働時間が通算されます。
労働時間を通算した結果、副業先で法定労働時間を超えて仕事をしている場合、副業先は割増賃金の支払い義務が生じます。

なお、このような場合でも、36協定の締結は必要となります。
一般的には、副業として後から労働契約を結ぶ会社は、当該労働者が他の事業場で労働していることを確認した上で契約を締結すべきとしてます。

従業員に法定労働時間を超過して勤務させた場合の賃金割増率は25%です。他にも、法定休日に勤務させれば35%、22時から5時までの深夜に勤務させれば25%とされています。

割増賃金の支払いの対象となるのは、本業や副業で、社員やパート、アルバイトなど雇用関係を締結して仕事をしている場合です。
自営業やフリーランスの場合は、労働基準法が適用されないため、割増賃金の支払いの対象にはなりません。

働いた時間を数える順番は、「仕事をした順番」となり、1日8時間を超えた時点での事業者が割増賃金の支払い義務が生じます。

労災事故の場合の補償について

副業先で事故った時の補償が、手厚くなってるぞ

労災保険とは、雇用形態にかかわらず全ての労働者が加入する保険で、保険料は全額事業主負担となります。

労災事故があったときに労災保険から支払われる補償額は、「給付基礎日額」という金額を算出して行われます。
給付基礎日額とは、労災事故が発生した日または疾病の診断が確定した日の直前3ヶ月間の賃金総額を、その期間の総日数で割った金額です。

これまで副業をしていた場合の給付基礎日額は、労災事故が発生した会社の賃金のみを対象として計算していました。
そのため副業先で労災事故でケガをすると、「本業」も休まなければならないため、生活が出来なくなってしまいます。

そこで、副業を推進させる視点から、収入額が少ない「副業」先で労災事故にあった場合でも十分な補償がなされるよう、見直しが行われています。

給付基礎日額の算定方法の変更

2020(令和2)年9月、労災保険法が改正され、副業・兼業などを行なっている労働者の給付基礎日額については、労災事故が発生した会社の給料だけでなく、本業と副業の両方の会社で支払われている給料を合算して算定するよう、計算方法が変更されました。

A社(月給20万円)とB社(月給10万円)の2社で働いている労働者が、「B社で労災事故にあった場合の給付基礎日額」を考えてみます。
以下の例では、直近3ヶ月の暦日数が90日とし、給付基礎日額を「労災事故前3ヶ月分の給料÷90日」として計算します。

これまでは、「B社の給料額のみ」が給付基礎日額の対象でした。

そのため、給付基礎日額は以下のようになります。

10万円×3ヶ月÷90日=3,334円

令和2年9月の法改正後、B社で労災事故に遭っても「本業」の給料額も含めて給付基礎日額が計算されるようになりました。

A社とB社の合算による給付基礎日額
(20万円+10万円)×3ヶ月÷90日=1万円 と補償額が手厚くなったことがわかります。

複数業務要因災害も対象に

また、今回の労災保険法の改正では、新たに「複数業務要因災害」が新設されました。

複数業務要因災害の対象となる疾患は、業務災害のうち脳・心臓疾患(いわゆる過労死)、精神疾患などです。

これまでは、「業務によって発症したかどうかの判断」は、複数の会社で働いている場合であっても、一つ一つの会社の業務上の負荷(時間外労働やストレスなど)を基準に判断していましたが、副業・兼業をしている場合には、複数の事業場における負荷を総合的に評価して労災認定を行うよう変更されました。

失業(基本)手当(雇用保険)

65歳以上の労働者にはマルチジョブホルダー制度が新設
現在、雇用保険の被保険者となる要件は、以下の2点です。

① 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
② 31日以上引き続き雇用されることが見込まれるものであること

副業・兼業で仕事をしていても、労働時間を通算することはできません。複数の会社で要件を満たす場合は、給料が多い会社でのみ加入できます。

そこで、2022(令和4)年1月より「マルチジョブホルダー制度」が始まりました。
65歳以上の労働者については、本人の申し出があった場合、労働時間を合算して雇用保険を適用することができるようになりました。

もちろんのことですが、資格を取得した日から雇用保険料の納付義務が発生しますので、「ご利用は計画的」にです。

65歳以上の労働者が受給できる「高齢者求職者給付金」の要点
・失業認定を行った日に支給決定される
・失業認定は1回限り
・受給期間は離職日の翌日より1年間
・支給額は、被保険者だった期間によって以下のように異なる

被保険者であった期間1年未満1年以上
支給日数30日分50日分

・支給額は「離職時6ヶ月間の給与の平均額」の50〜80%

まとめ

安全配慮義務の徹底を
安全配慮義務については、労働契約法の第5条において「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められています。

副業・兼業者のように「違う会社で仕事をしている」労働者についても、それぞれの会社では労働時間の把握を行わないといけません。

長時間労働は、心身の疲労などから健康を損ね、重大な労働災害につながる危険があります。
会社は労働者が「副業・兼業している」ことを把握したうえで、過度な負担とならないように労働時間の管理を徹底しなければなりません。

また、それぞれの勤務先での労働時間が、通常の労働者の「1週間の所定労働時間の3/4以上」である場合などでは、健康診断の実施も必要となってきます。

就業規則で副業を禁止する会社が多いのは、このように「管理の負担が大きい」のが原因となっているからだと言えます。

給付基礎日額や労働災害の認定など、副業・兼業を行う労働者のセーフティネットは整備されつつありますが、会社側の負担を軽減する方法も考えないと、副業・兼業を認める会社は増えてはこないでしょう。

副業・兼業時の環境整備は、日本が抱える大きな課題である「労働人口不足を補う」ためでもあるので、今後も政府は会社に対して、さまざまな雇用形態に対応した雇用管理を求めてくることが予想されます。
会社には、最新の法改正を確認し、適切に管理することが求められています。

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ミスター長男50

【プロフィール】

1969年(昭和44年)生まれ
富山県で生まれ、今は千葉県民
・仕事は病院事務(管理職)
・社会保険労務士
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)
「仕事」や「お金」に関する法改正や、(定年)退職後や資産形成に関する疑問などを分かりやすくまとめ、発信していきます。

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