2022(令和4)年4月、年金制度改正法が施行されました。
この改正は2020(令和2)年5月に成立した法律で、目的は「より多くの人がより長く多様な形で働く社会へと変化する中で、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため」とされています。
この改正が行われる前までは、パートやアルバイトで働いている人は「労働時間」や「賃金」などが、厚生年金の加入要件を満たさないというケースが多くありました。いわゆる「130万円の壁」です。
今回の改正では、一部の大企業のみ実施されていた厚生年金加入の基準を中小規模の企業にも拡大しています。また、老齢厚生年金をもらいながら厚生年金に加入(被保険者)して働いて一定の金額に達すると、年金の全部または一部が支給停止となっていた「在職老齢年金制度」にも見直しが行われています。
今回は、多くの人が抱いていた不安が数字によって具現化した「老後2000万円問題」と、年金制度改正のポイントについて、まとめてみます。
老後2000万円問題とは
いわゆる老後2000万円問題とは、2019(令和元)年6月に「金融審議会 市場ワーキング・グループ」が発表した報告書がコトの始まりです。
これは、仮に公的年金だけで生活をしようとすると、毎月約5.5万円赤字となり、60歳で定年し以降30年間生活していくには、月5.5万円×30年=約2000万円の資金が必要というもの。
しかし、これはあくまで「仮」の話。老後2000万円問題では「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの高齢夫婦無職世帯」をモデルとして収入や支出が算出されています。
しかし、「夫婦2人が厚生年金にずっと加入していた65歳以上の世帯」では、もらえる年金額がこのケースよりも増えるため、収支がトントンもしくはそれ以上になる場合も考えられます。一方で「国民年金のみに加入していた一人暮らし」の場合では、生活費の減少より年金の方が少なくなるで、老後に不足する資金の額は2,000万円を大きく超える可能性もあります。
つまり自分の老後生活するための資金は、それぞれ自分で用意する必要があるということです。老後に備えるためにも、まず老後生活の収入の柱となる年金について知ることは大切です。
2022(令和4)年の年金改正のポイント
2022(令和4)年は、年金制度が大きな改正が行われた年でした。主な改正点は6つあり、厚生年金の適用拡大だけは10月に実施されています。
実施時期 | 改定項目 | 内容 |
2022(令和4)年4月 | 60歳前半の在職老齢年金の緩和 | 「年金+給料」が28万円を超すと減額されていたが、47万円まで減額なし |
2022(令和4)年4月 | 65歳以上の在職老齢年金の改定 | 65歳以降に納めた厚生年金保険料を毎年10月からの年金額に反映 |
2022(令和4)年4月 | 繰上げ支給の減額率の引き下げ | 減額率が月0.5%→0.4%に引き下げ |
2022(令和4)年4月 | 繰下げ支給開始年齢の引き下げ | 増額率月0.7%と変更はないが、75歳まで繰り下げ可能に |
2022(令和4)年4月 | 確定拠出年金の加入条件などの見直し | 確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の上限年齢が70歳から75歳に引き上げ |
2024(令和6)年10月 | 厚生年金の適用拡大 (短時間労働者の適用拡大) | 労働者が101人以上の企業に拡大 ・週20時間以上・給料8.8万円以上 ・雇用期間2ヶ月以上の被保険者に適用 ・2024(令和6)年10月からは、さらに労働者が51人以上の企業に拡大 |
2022年10月から厚生年金の適用対象が拡大
労働条件が同じ短時間労働者であっても、雇用されている会社の規模によって、社会保険(健康保険・厚生年金)の適用(被保険者)になる人とそうでない人がいました。
具体的には、被保険者が501人以上の事業所で働く短時間労働者は、健康保険・厚生年金の適用対象となっていしたが、今回の年金制度改正で2022(令和4)年10月からはその適用範囲が拡大され、被保険者数が101人以上の事業所で働く短時間労働者も健康保険や厚生年金への加入が義務化されました。
さらに2024(令和6)年10月からは、51人以上の事業所で働く短時間労働者も対象となりますので、さらに多くの人が社会保険の被保険者、つまり年金制度を支える側にまわることになります。
また、短時間労働者の要件も見直され「勤務期間1年以上」とあった要件が撤廃されました。あらたな適用要件は、以下のとおりです。
・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が8.8万円以上
・2ヶ月を超える雇用の見込みがある
・学生でない
月額8.8万円は年収にすると106万円となり、パートやアルバイトで働く多くの人が新たに社会保険の被保険者となりその手取りが減ってしまうので、「106万円の壁」などと言われています。
参考:パート始めたら「壁」だらけ❗️「税金の壁」と「社会保険の壁」について
この壁を克服するためには、例えば収入が106万円の人ならば、給料を15%程度(約16万円)増やさなければ、手取り額が減ってしまいます。これからは、もっと多くの人がこの壁を「越える」か「超えない」か考えることになるでしょう。
60歳前半の在職老齢年金の緩和
「在職老齢年金制度」の改定も行われました。
現在は老齢年金の支給開始が65歳に段階的に引き上げられている最中で、企業は65歳まで働き続ける法整備がされていることもあり、定年退職した後も働き続ける人が増えています。
老齢厚生年金をもらいながら厚生年金の被保険者として働いていると、年金の基本月額(受け取る年金の月額)と総報酬月額相当額(給料と賞与の12分の1の合計額)の合計額が「月収28万円以上」になると、年金の支給額の一部又は全部が停止となる場合があります。
参考:年金をもらいながら働くと「働き損」なの?知っておきたい「在職老齢年金」のこと
この仕組みを「在宅老齢年金制度」といいますが、年金制度改正により、60歳以上65歳未満の人の支給停止の基準額が28万円から47万円に緩和された。
総報酬月額+基本月額 | 在職老齢年金(月額) |
① 47万円以下の額 | 老齢厚生年金の全額を支給 |
② 47万円超の額 | (A)基本月額ー((B)総報酬月額+基本月額ー47万円)×1/2 |
改正前の基準額が28万円と低く設定されていたので、半分以上の人が支給停止の対象者でしたが、改正後は約15%と適用となる人が大幅に減る見込みとなっています。
なお、この在職老齢年金制度の基準額は、令和5年度からは48万円に改定されます。
65歳以上の在職老齢年金の改定
年金制度改正が行われる前までは、老齢厚生年金を受け取りながら働いている人(老齢年金受給者)がが厚生年金の被保険者のまま働き続けた場合、退職または70歳に到達した時点でそれまでの厚生年金保険料が年金額に反映される「退職時改定」により年金額が変更されていました。
つまり、仕事を辞めるか70歳にならなければ、年金額は改定されませんでした。
それが在職中であっても毎年9月1日(改定の基準日)に被保険者である65歳以上70歳未満の老齢年金受給者は、翌月の10月分から年金額を改定する「在職時改定」に改められました。
この見直しにより、年金を受給しながら働く人の年金額が早く改定されるため、労働意欲の維持・向上と年金収入の充実が図られるようになりました。
受給開始年齢の選択肢の拡大
原則65歳支給の老齢厚生年金・老齢基礎年金の受給を遅らせることを「繰下げ受給」といいます。反対に受給開始を早めることを「繰上げ受給」といいます。
これまで年金受給開始年齢は60歳から70歳までの間で選択できましたが、2020年4月より、上限が75歳に引き上げられました。
受給開始時期を切り下げた場合に受給額が増額される「増額率」は1ヶ月あたり0.7%で、75歳まで繰り下げた場合には最大184%となります。
また、65歳になる前に年金受給を開始する場合の「減額率」は1ヶ月あたり0.4%となり、改正前の0.5%から変更されました。
【年金制度改正施行による、受給開始時期と繰上げ減額率の見直し】
改定時期 | 年金受給開始年齢 | 繰上げ減額率の改定 |
2022年3月まで | ・年金受給開始年齢は65歳 ・受給開始時期を60歳から70歳までの間で選択可能 | ・65歳以前に年金受給開始する場合 ・繰上げ減額率:0.5% |
2022年4月から | ・年金受給開始年齢は65歳(変更なし) ・受給開始時期を60歳から75歳までの間で選択可能 | ・繰上げ減額率:0.4% |
確定拠出年金の加入条件の見直し
確定拠出年金については、加入可能年齢と受給要件が見直され企業型DCとiDeCo(イデコ)でそれぞれ5歳の引き上げを実施。
また、公的年金の繰下げ受給開始年齢が75歳まで引き上げられたのに合わせて、確定拠出年金の受給開始の上限年齢も75歳に引き上げれらました。
改定時期 | 企業型確定拠出年金 | iDeCo |
2022年4月まで | 加入は65歳まで | 加入は60歳まで |
2022年5月から | 加入は70歳まで ※ただし企業規定によって異なる | 加入は65歳まで 国民年金に任意加入している海外居住者も加入可能 |
まとめ
日本の年金制度の特徴は「仕送り方式」
日本の年金制度は「自分が支払った保険料=受け取る額」という「積み立て方式」ではなく、現役世代が納める保険料が高齢者の年金となる「仕送り方式(世代間扶養)」、つまり世代と世代の支え合いによって成り立っている制度です。
そもそも、自分が納めた保険料分しか受給できないのであれば、75歳ぐらい、つまり10年程度で年金が打ち切りになるます。公的年金が被保険者が生きている限り一生涯年金を受け取れる終身年金であるのは、日本の年金制度がこの「仕送り方式」を採用しているからです。
参考:年金保険料は何歳まで払えばいいの?何歳からいくらもらえるの⁇
しかし、「老後2000万円問題」に代表されるように、年金だけでは老後生活が心許ないのも事実。
将来の公的年金に関しては、現役世代の平均手取り収入に対する年金受給額の割合、いわゆる所得代替率の低下や年金受給開始年齢の繰り下げ(65歳からの繰り下げ)など、不確定要素があることは否定できません。
加えて、高齢者人口の増加に伴う社会保険料負担の増加や少子化による社会保険の支えて不足が社会問題となっています。
参考:年金は自動的にもらえるの?「老齢年金」の受取りと「繰上げ・繰下げ」の手続きについて
そのため、自らの年金を増やす努力も必要です。
年金を増やすには「繰下げ受給」などで増やすという方法もありますが、最も確実なのは「働けるうちは働く」こと。 自分の年金が足りないと感じている人は、まずは60歳以降も働き続けるよう、健康第一の生活に生活習慣を改善しましょう。
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