労災保険は縁の下の力持ち❗️労災事故時の手続きや給付・補償内容について

労働保険

日本には、労働者が安心して仕事を行うため、「労働基準法」があります。
労働基準法では、業務上のケガや病気について、会社に一定の補償を義務付けていますが、会社の支払い能力に問題があるなどした場合、従業員に十分な補償が行われない可能性があります。

そのため、国が会社から保険料を集めることによって、会社に代わって労働者に対し補償する制度が「労災保険」制度です。

今回は、普段は目立たないが「いざ」というとき、私たち労働者を守ってくれる、労災保険についてまとめてみます。

労災保険とは

ケンカのケガで労災保険は使えないぞ!

労災保険の正式名称は、「労働者災害補償保険法」。
労働基準法では「使用者による災害補償」が定められています。
しかし、会社の経営状況や倒産などによって、労働者への補償が確実に実施されない可能性があります。
そのため、会社による災害補償責任の履行を確実なものとするため、労災保険法が制定されました。

なお、労災保険の保険料は、全額が会社負担となっています。

従業員を雇ったら労災保険の加入は義務

適用される会社は、仕事の内容や規模、法人・個人経営を問わず、従業員を一人でも雇っている場合は、加入が義務付けられます。
労災保険は、正社員、パート、アルバイトなど雇用形態や勤務日数・時間に関わらず全ての従業員が対象となります。

労災事故が発生した時の対応

療養(補償)給付には2種類ある
労災保険は、業務上、または通勤の途中の事故によって、ケガや病気、障害、または死亡などしたときに、その従業員やその遺族を補償する公的保険です。

従業員が、「業務中にケガ」を負ってしまい病院で受診が必要となった場合は、労災保険の「療養(補償)給付」を使って治療を行うことになります。自己負担はありません。

療養(補償)給付は、労働者が業務上のケガや病気により、労災病院や指定医療機関や薬局(以下、「労災指定医療機関など」)で診察を必要とする場合に支給されます。

療養(補償)給付には、「療養の給付」(現物給付)と「療養の費用の支給」(現金支給)の2種類ありますが、原則は、「療養の給付」です。
「療養の費用の支給」は、緊急に診察が必要なとき、近くに労災指定医療機関がないなど、特定の事情がある場合の取り扱いになります。

2つの療養(補償)給付の役割の違い

労災保険が適用となったケガや病気の療養は、「療養(補償)給付」と呼ばれ、労災指定医療機関などで傷病が治ゆするまで「自己負担なし」で受けられます。

「療養の費用の支給」は、緊急などの理由で「労災指定医療機関以外の医療機関」で療養を受けた場合に、労働者が一旦その治療費を自費で全額支払い、その後労働基準監督署にその費用を請求するものです。

医療機関で自費(保険を使わない診療)で受診した場合の治療費は、請求方法が各医療機関で異なるため、金額が違ってきます。
後日、労働基準監督署において、その診療内容を労災診療の規定に合わせて再計算した場合、支払った金額と差が生じ支払った費用の全額が戻らないケースもあります。ご注意ください。

労災保険で療養するための手続き

療養した医療機関が労災指定医療機関などの場合は、「療養補償給付たる療養の給付請求書」(様式第5号)を医療機関に提出します。なお、通勤災害の場合は、「療養給付たる療養の給付請求書(様式第16 号の3)」を提出します。

請求書は医療機関を経由して労働基準監督署長に提出されます。薬局を利用する場合は、別に様式5号を薬局に提出する必要があります。

緊急で療養した医療機関が労災指定医療機関でない場合には、一旦療養費を立て替えたあと、「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号および様式第16号の5)」を、直接、労働基準監督に提出すると、その費用が精算されます。

療養(補償)給付以外の労災保険の補償内容

労災保険の給付は、療養補償給付以外に6種類、「二次健康診断等給付」も合わせると7種類あります。療養(補償)給付を含めると、全8種類の給付があります。

給付額は、労災事故が発生した日以前3ヶ月前の給料を総暦日数で日割りした金額(給付基礎日額)をベースに計算されます。
なお、この給付基礎日額には、最低保障額が設定されており、最低保障額は、世の中の賃金水準が考慮されて毎年変動します。
令和4年10月現在の最低保障額は「3,970円」です。

「年金」の支給を受ける場合には、年齢階層別に最低・最高限度額が設定されています。

休業(補償)給付

労働災害による傷病によって仕事を休業した日が「4日以上」続いた場合に給付されます。
休業してからの3日間は「待機期間」とされ、業務災害の場合は事業主が休業補償を行う義務を負います。
なお、この待機期間は健康保険の「傷病手当金」のように「連続」である必要はなく、通算でかまいません。

給付額は休業1日につき、給付基礎日額の60%相当額です。
なお、休業(補償)給付とは別に、労災保険の社会復帰促進等事業により、給付基礎日額に20%相当額が支給されるため、実質的には、給付基礎日額の80%相当額が支給されます。

傷病(補償)年金

労働災害による傷病が、事故から1年6ヶ月を経過しても治っていない場合で傷病等級第1級〜3級に該当する場合には、年金が給付されます。
傷病(補償)年金の受給権者には、休業(補償)給付は支給されませんが、療養(補償)給付は支給されます。

給付額は、給付基礎日額の245日〜313日分。支給月は毎年偶数月(2,4,6,8,10,12月の各月)に、それぞれの前2ヶ月分が支給されます。

障害(補償)給付

労働災害による傷病によって、後遺障害が残った場合の補償です。
障害等級が第1級〜7級までは年金を、障害等級第8級〜14級までの障害に対しては、一時金が支給されます。

給付額は、障害等級第1級〜7級の場合は障害(補償)年金として給付基礎日額の131日分から313日分。障害等級第8級〜14級の場合は、障害(補償)一時金として給付基礎日額の56日〜503日分が支給されます。

介護(補償)給付

障害等級第1級の全ての人と、第2級の精神神経・胸腹部臓器の障害がある人が、現に介護を受けている場合に給付されます。

給付額は、「常時介護」の場合は、介護の費用として支出した実費額(月額上限171,650円)。「随時介護」の場合の上限は、85,780円。
「親族などによる介護」の場合は、月額上限75,290円、「随時介護」の場合の上限は37,600円です。

なお、介護(補償)等給付・介護料の最低保障額は、最低賃金の全国加重平均に基づいて見直しが行われます。

遺族補償給付

労働災害で労働者が死亡した場合、遺族に対して年金または一時金が給付されます。

給付額は、労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた遺族の人数に応じて、次の額となります。

遺族の数年 金 額
1人給付基礎日額の153日分
2人給付基礎日額の201日分
3人給付基礎日額の223日分
4人以上給付基礎日額の245日分
*受給権者が55歳以上の妻又は一定の障害の状態にある妻であるときは、給付日額の175日分となる

葬祭料

労働災害で労働者が死亡した場合、葬祭を行う人に対して葬儀を行う費用として給付されます。

給付額は、315,000円+給付基礎日額の30日分(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分)です。

二次健康診断等給付

労働安全衛生法の規定による定期健康診断等で、労働者に脳・心臓疾患の所見があった場合が対象となります。

請求方法は、「二次健康診断等給付請求書」(様式第16号の10 の2)に必要事項を記入し、一次健康診断の結果を証明することができる書類(一次健康診断の 結果の写しなど) を添付して、健診給付病院等に提出してください。
健診給付病院等が、 所轄の都道府県労働局長に提出しています。

療養(補償)給付と同じで、現物給付となるため、労働者が費用負担する必要はありません。

知っておきたい労災指定医療機関のこと

労災指定医療機関とは、労災保険を利用した労災の治療に対応する病院や診療所のことで、医療機関の申請にもとづいて、都道府県の労働局長が指定します。

労災指定医療機関では、労災保険の範囲内での治療を現物給付(医療行為)として提供します。そのため、治療を受ける労働者は病院で治療費を負担する必要がありません。
ただし、無償の治療は労災保険の範囲内に限られますので、病院で使用する日用品などは、患者の負担になります。

労災指定医療機関では、健康保険を使った「労災以外」の一般診療も行なっています。
業務上のケガや病気などで医療機関にかかる場合、気を付けたいのが「労災の傷病の治療には、健康保険は使えない」という点です。

仕事中の急なケガのため、手続きが間に合わず、医療費の全額を自費で支払う場合でも、健康保険証を使ってはいけません。
健康保険では、「業務上」のケガは、保険給付の対象外です。そのため、健康保険を使って受診すると、保険者に対し、医療費の全額を返金しなくてはなりません。

こうしたケースでは、医療機関と相談し、早急に「様式第5号」を提出するなどの対応を取ってください。
医療機関でも、会社が治療した月と「同月内」に対応してくれるのであれば、柔軟に対応してくれると思います。

まとめ

労災保険は、雇用形態や勤務日数などにかかわらず、労働者が手厚い補償を受けることができるだけでなく、その家族までも支える手厚い制度です。

しかし、自営業者やフリーランスは、原則、労災保険に加入できません。そのため、業務上のケガや病気のときも、国民健康保険を使うことになります。

ただし、事業主や個人タクシー、大工やとび職人などの建設業などの職業では、労災の任意加入が認められています。これは「特別加入」と呼ばれている制度です。
労災保険は補償が手厚いため、対象となる人は、加入を検討してみるのが良いと思います。

特別加入できない人は、労災事故のような緊急で重大な事態に備えるために、民間保険の加入も検討しておいた方が良いでしょう。
特に、まだ小さい子供がいる家庭では、「万が一」への備えとして、掛捨てで保険料が安く保障額が大きい「収入保障保険」や「定期保険」などの加入を検討してみるのがよいと思います。

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ミスター長男50

【プロフィール】

1969年(昭和44年)生まれ
富山県で生まれ、今は千葉県民
・仕事は病院事務(管理職)
・社会保険労務士
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)
「仕事」や「お金」に関する法改正や、(定年)退職後や資産形成に関する疑問などを分かりやすくまとめ、発信していきます。

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