働き方改革❗️副業・兼業時のセーフティネットはどうなっているのか?(社会保険編)

健康保険

働き方改革の一環として、政府は、労働者・企業のそれぞれにメリットがあるとして「副業・兼業の促進」を図っています。

2018(平成30)年1月に策定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」によると、「自身の能力を一企業にとらわれずに幅広く発揮したい、スキルアップを図りたいなどの希望を持つ労働者がいることから、こうした労働者については、長時間労働、企業への労務提供上の支障や業務上の秘密の漏洩等を招かないよう留意しつつ、雇用されない働き方も含め、その希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境を整備することが重要」とされています。

「副業・兼業の促進」として、労災保険では、副業・兼業先での労災事故時の補償の充実(本業・副業での賃金合算による給付基礎日額の算定)を、雇用保険では、65歳以上の労働者を対象としたマルチジョブホルダー制度(2つの事業所で一定の要件を満たせば被保険者とする制度)などの環境整備が行われています(参考:働き方改革❗️副業・兼業時のセーフティネットはどうなっているのか?(労働保険編))。

社会保険(健康保険と厚生年金保険)では、両方の事業所で要件を満たす場合、労働者がどちらかの事業所の社会保険を選択し、保険料は報酬月額を合算して算出する仕組みがとられています。

今回は、副業・兼業時の社会保険におけるの会社の対応について、まとめてみます。

健康保険・厚生年金保険の適用拡大

副業・兼業、おじさんも他人事ではないよね…

健康保険や厚生年金保険などの社会保険においては、2022(令和4)年10月からパート・アルバイトなどの短時間労働者の加入が義務付けられる適用事業所の範囲拡大が以下のとおり行われています(太字が変更部分)。

2024(令和6)年10月には、さらに適用事業所の範囲を拡大し、常時50人を超える事業所に拡大されます。このことも、間接的には、労働者が長く安心して働ける環境を整備しているため、セーフティネットの拡大と言えます。

適用要件早見表

対象平成28年10月〜令和4年10月〜
(現行)
令和6年10月〜
(改正)
特定適用事業所被保険者の総数が常時500人超被保険者の総数が常時100人超被保険者の総数が常時50人超
短時間労働者1週間の所定労働時間が20時間以上変更なし変更なし
月額88,000円以上変更なし変更なし
継続して1年以上雇用される見込み継続して2ヶ月を超えて使用される見込み変更なし
学生でないこと変更なし変更なし
(参考:日本年金機構/令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大より)

本業でも副業・兼業の場合でも、1週間の所定労働時間が20時間以上を満たせない場合には、社会保険に加入することができません。
事業所ごとの労働時間の合算も行われないので、この点は注意です。

副業でも条件を満たしたら社会保険への加入が必要

会社・労働者には、加入要件を満たせば、社会保険に加入する義務が発生します。
それは、本業で社会保険に加入している人が、副業先で要件を満たした場合も同じです。

雇用保険は、本業として主たる賃金を受ける事業所「1社」でしか加入できません。保険料は、本業として働く会社の収入から徴収されます。

しかし、健康保険や厚生年金保険などの保険料は、「本業の収入+副業・兼業の収入」を合算した金額を基準に保険料を計算し、それぞれの事業所が支払う給料(報酬月額)に基づき保険料を按分して徴収します。

ただし、健康保険の場合、保険証が2枚になるわけではありません。

健康保険・厚生年金保険の複数加入は各自で手続きが必要

「選択事業所」は労働者が選択
本業と副業先の会社で健康保険や厚生年金保険の加入条件を満たす場合は、労働者が主となる会社を選択しなければなりません。

必要書類と提出先

必要書類
・二以上事業所勤務届(作成者:労働者)
・被保険者資格取得届(作成者:非選択事業所)
提出先
・主となる会社を管轄する年金事務所。会社に組合管掌健康保険の場合は、健康保険組合(年金に関する書類は年金事務所)

選択する事業所は「選択事業所」に、、選択しなかった事業所は「非選択事業所」になります。
「選択事業所」の事業所を管轄する保険者が、健康保険に関わる事務手続き(標準報酬月額の決定や保険証の発行など)を行うことになります。

提出先は、選択事業所とした会社を管轄する年金事務所や該当する場合は健康保険組合。提出期限は、勤務開始から10日以内です。

また、非選択事業所とした会社で社会保険に加入していた場合は、「健康保険・厚生年金保険 資格喪失届」の提出と「健康保険被保険者証」の返却が必要があります。

二以上事業所勤務者の保険料計算方法

二つ合わせないと、正しくないでしょ!

選択事業所(A社)の給料(報酬月額)「a」、非選択事業所(B社)の給料(報酬月額)を「b」とすると、「a+bの合算額」をもとに標準報酬月額を決定し、A社、B社が負担する保険料は報酬月額で按分して求めます。

・健康保険料率10%(被保険者の負担分5%)
・厚生年金保険料率18.3%(被保険者の負担率9.15%)

・A社(選択事業所)の報酬月額150千円…a
・B社(非選択事業所)の報酬月額100千円…b

・報酬月額の合計250千円(標準報酬月額260千円)

以上を例に、保険料の具体的な計算方法を見てみます。

A社
(選択事業所)
B社
(非選択事業所)
健康保険料260千円×10%×150/250=15,600円
(被保険者負担分7,800円)
260千円×10%×100/250=10,400円
(被保険者負担分5,200円)
厚生年金保険料260千円×18.3%×150/250=28,548円
(被保険者負担分14,274円)
260千円×18.3%×100/250=19,032円
(被保険者負担分5,516円)

なお、A社(健康保険組合)とB社(協会けんぽ)など保険料率が異なる場合は、選択事業所(この場合ならA社)の保険料率を用いて保険料の計算が行われます。

賞与にかかる保険料については、選択事業所における賞与と非選択事業所における賞与を合算して標準賞与額を求めたあと、選択事業所の保険料率を掛けて保険料を算出します。
その後、保険料にそれぞれの会社で支払った賞与額に応じて按分した金額が、負担する保険料になります。

二以上事業所勤務者の算定基礎届・月額変更届について

二以上事業所勤務者にかかる算定基礎届(定時決定)については、あらかじめ選択事業所を管轄する年金事務センター、もしくは健康保険組合などの「保険者」から送られてくる用紙に選択事業所での報酬を記載し提出します。
すること、「保険者」で各事業所から受ける報酬を合算し、その年の9月以降の標準報酬月額が決定します。

また、固定的な賃金に2等級以上の変動が生じた場合に提出している月額変更届(随時改定)については、「賃金が変動した会社」で2等級以上の変動があったかの判定を行い、保険者に届出します。

なお、もう一方の会社(非選択事業所)で随時改定に該当したときは、報酬月額改定の通知が保険者より選択事業所に届きます。

健康保険・厚生年金保険の加入義務を果たさなかったらどうなる?

虚偽の届出には罰則あり

手間がかかるうえに、罰則まであるって…

健康保険法第208条 では、事業主が正当な理由なく届出を行わない場合や、虚偽の届け出を行った場合は、6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金が定められています。

従業員が「会社に秘密」で副業を始めてしまうと、二以上事業所勤務届の提出がされないために、「正しい標準報酬月額」が決められません。ケースによっては、「虚偽の届出」とみなされる可能性も考えられます。
また、副業先と保険料負担の按分もできないため、本来の負担額以上の社会保険料を支払うことも想定されます。

従業員が、副業を行なっているかいないかの確認は、会社が行うことになっています。
就業規則で副業・兼業を認めている会社は、従業員に対し必ず届出書を提出するよう徹底しておく必要があります。

まとめ

2ヵ所以上の事業所に勤務する労働者は、主たる事業所を選択して二以上事業所勤務の届出が必要です。

2022(令和4)年10月以降、社会保険の適用事業所が拡大されたため、現在2ヵ所以上で勤務している人が、すでに被保険者の要件を満たしているかもしれません。
その2年後には、今まで以上に多くの事業所が適用事業所となるため、「二以上事業所勤務届」の該当者が増加するでしょう。

適切な処理が行われていない場合には、会社に対し罰則があるので、会社は従業員の就業状況を正確に把握するとともに、労働時間を把握し時間外手当など手当を正確に支給することにも、努める必要があります。
会社は、副業・兼業を就業規則で定めるならば、従業員に対し正確に手続きをするよう、指導する必要があります。

しかし、会社側の手間と負担を考えると、なかなか普及していかないような気もします。
「働く」ことは、老後資金などのお金を貯めるための大切な行為、いわば「エンジン」です。副業・兼業が普及することで、収入が増えれば今までよりお金を貯めることができますが、エンジンに負荷がかかれば壊れやすくもなります。
エンジンが壊れたら、最悪の場合、走れなくなってしまいます。私たち労働者側もワークライフバランスを重視し、「長続きするやりがいのある働き方」を考えていけるようにしたいですね。

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ミスター長男50

【プロフィール】

1969年(昭和44年)生まれ
富山県で生まれ、今は千葉県民
・仕事は病院事務(管理職)
・社会保険労務士
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)
「仕事」や「お金」に関する法改正や、(定年)退職後や資産形成に関する疑問などを分かりやすくまとめ、発信していきます。

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