老後のお金(年金)のこと…
”大切なこと”だとは分かっていても、「難しそう」とか「今の高齢者が何とかなってそうだから、自分も何とかなるだろう」など理由をつけて、準備するのを後まわしにしがちな案件です。
日本は世界でも有数の長寿国。現在65歳の方の平均余命は、男性が20.05年、女性が24.91年であり(「令和2年簡易生命表」厚生労働省)、多くの人で65歳以降の生活が20年以上続くことになります。
今回は長期化する老後生活の収入の柱である「老齢年金」について、まとめてみます。
年金制度は「国民年金」と「厚生年金」に分けられる
公的年金制度は大別すると、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民年金と、 会社などに勤務している人だけが加入する厚生年金の2つの制度があり、それぞれで支払う保険料や受け取れる年金額に違いがあります。
厚生年金に加入している人は、同時に国金年金にも加入していることになっているため、同時に2種類の年金に加入しています。そのために、よく建物の構造に例えられて、「2階建て」と呼ばれています。なお、どちらの年金も受け取りは、原則65歳からです。
国民年金の保険料は定額で、月額16520円(令和5年度)。
保険料を40年間支払うと、月額で約6万6千円(年額79万5千円)の「老齢基礎年金」を死ぬまで受け取ることができます。
厚生年金保険の保険料は、給料が高いほど納める保険料も多くなります。
保険料率は、給料(標準報酬月額)の18.3%。そのうち半額は会社が負担しています。なお、厚生年金の保険料には国民年金の保険料も含まれているので、別途、国民年金保険料は納める必要はありません。
参考:初任給は保険料が引かれないって本当❓公的医療保険の「保険料」と「改定」のタイミングについて
なお、厚生年金の加入期間は原則70歳まで。
会社に勤めていても70歳になった時点で被保険者の資格を失います。 そのため厚生年金保険料の支払いは70歳までとなりますので、年金額計算の基礎も70歳までとなります。
自分の年金額を知る
では、自分の老後の年金はいくらくらいなのか?
自分の年金額は、毎年の誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」の中に記載されている「これまでの実績に応じた年金額」に記載されています。
ここで、50歳未満の人には注意する点を一つ。ねんきん定期便は50歳未満と、50歳以上で「年金額」の記載条件が以下のとおり異なります。
ねんきん定期便の「これまでの実績に応じた年金額」の注意点
・50歳未満→ これまでの実績に応じた年金額
・50歳以上→ 現在の加入条件が60歳まで継続すると仮定しての年金額
参考:老後の安心❗️「ねんきん定期便」の見方や「繰上げ・繰下げ」など年金の増やし方について
老齢基礎年金を受給するには、10年以上の加入期間が必要で、10年未満の場合は「0円」となります。
厚生年金は、この10年以上の加入期間を満たした上で、厚生年金に1ヶ月以上加入していれば、基礎年金に厚生年金が上乗せされて支給される仕組みです。
もし、加入期間が10年に満たない場合は、追納制度により10年間遡って支払える仕組みがあります。この追納制度は、免除期間や未納期間があり、基礎年金を満額受給できない場合にも利用できます。
ざっくり、老後の「年金額」を計算してみる
老齢基礎年金の保険料未納の影響は「1年間で2万円」の減額
老齢基礎年金の受給額は、40年間(480月)保険料を納め続けた場合、満額の795,000円(令和5年度)です。
「40年間で満額」を受給できるので、
「1年間保険料を納めないと2万円減額(795,000÷40年=19,875円)される」
と覚えておけばいいでしょう。
また、老齢基礎年金には「免除期間(全額、1/4、半額、3/4と4種類)」がありますが、この場合も、一定額の老齢基礎年金が減額されます。
令和4年度の老齢基礎年金額の計算式
777,800円×(「保険料納付月数」+「1/4免除月数×7/8」+「半額免除月数×6/8」+「3/4免除月数×5/8」+「全額免除月数×4/8」)/480月(40年間×12ヶ月)
例えば、480ヶ月(40年)の間に「保険料納付月数30年(360ヶ月)」と「1/4免除期間が10年(120ヶ月)」がある場合の保険料納付済期間は、
360ヶ月+105ヶ月(120ヶ月×7/8)=465ヶ月
国民年金に加入していた期間に、105ヶ月分の保険料が納付されたとして老齢基礎年金が計算されます。
老齢厚生年金は「年収」と「勤務年数」で受取れる額が違う
老齢厚生年金は、年収(百万円)×5500×勤務年数
老齢厚生年金の計算式は、2003(平成15)年度の改定により、給料をベースに行なっていた保険料の徴収をボーナスからも行う「年収ベース」(総報酬制の導入)となった影響で、2パターンの計算式あります。
① 2003(平成15)年3月以前
平均標準報酬月額×7.125*/1000×平成15年3月以前の加入月数
② 2003(平成15)年4月以後
平均標準報酬額×5.481*/1000×平成15年4月以降の加入月数
*それぞれ、生年月日ごとの乗率あり
これら式は複雑なので、「7.125」を「7.100」、「5.481」を「5.500」に置き換えれば、
年収(百万円)×7100×加入年数
年収(百万円)×5500×加入年数
これで老齢厚生年金額がざっくりと把握できます。
平均年収が500万円で30年働いた人の老齢厚生年金は、
5(百万円)×5500×30(年)=年間825,000円
この金額に、老齢基礎年金795,000円(満額の場合)を合計すれば、
82.5万円+79.5万円=約162万円(年額)となります
【 老齢厚生年金の受取予想額(年収・加入期間別)】
年収 | 5年 | 10年 | 15年 | 20年 | 25年 | 30年 | 35年 | 40年 |
150 万円 | 4万円 (0.3万円) | 8万円 (0.7万円) | 12万円 (1.0万円) | 16万円 (1.4万円) | 21万円 (1.7万円) | 25万円 (2.1万円) | 29万円 (2.4万円) | 33万円 (2.7万円) |
200 万円 | 5万円 (0.5万円) | 11万円 (0.9万円) | 16万円 (1.4万円) | 22万円 (1.8万円) | 27万円 (2.3万円) | 33万円 (2.7万円) | 38万円 (3.2万円) | 44万円 (3.7万円) |
300 万円 | 8万円 (0.7万円) | 16万円 (1.4万円) | 25万円 (2.1万円) | 33万円 (2.7万円) | 41万円 (3.4万円) | 49万円 (4.1万円) | 58万円 (4.8万円) | 66万円 (5.5万円) |
400 万円 | 11万円 (0.9万円) | 22万円 (1.8万円) | 33万円 (2.7万円) | 44万円 (3.7万円) | 55万円 (4.6万円) | 66万円 (5.5万円) | 77万円 (6.4万円) | 88万円 (7.3万円) |
500 万円 | 14万円 (1.1万円) | 27万円 (2.3万円) | 41万円 (3.4万円) | 55万円 (4.6万円) | 69万円 (5.7万円) | 82万円 (6.9万円) | 96万円 (8.0万円) | 110万円 (9.1万円) |
600 万円 | 16万円 (1.4万円) | 33万円 (2.7万円) | 49万円 (4.1万円) | 66万円 (5.5万円) | 82万円 (6.9万円) | 99万円 (8.2万円) | 115万円 (9.6万円) | 132万円 (11.0万円) |
700 万円 | 19万円 (1.6万円) | 38万円 (3.2万円) | 58万円 (4.8万円) | 77万円 (6.4万円) | 96万円 (8.0万円) | 115万円 (9.6万円) | 134万円 (11.2万円) | 153万円 (12.8万円) |
【 老齢基礎年金の受取予想額(保険料納付済み期間別)】
5年 | 10年 | 15年 | 20年 | 25年 | 30年 | 35年 | 40年 | |
老齢基礎年金 | 10万円 (0.8万円) | 20万円 (1.6万円) | 30万円 (2.4万円) | 40万円 (3.2万円) | 50万円 (4.1万円) | 60万円 (4.9万円) | 70万円 (5.7万円) | 79.5万円 (6.6万円) |
※納付済期間「5年」は、追納などで「増額」する場合の目安の金額。
2022(令和4)年の年金改正のポイント
2022(令和4)年は、年金制度が大きな改正が行われた年でした。
主な改正点は以下の3つです。
① 働く高齢者が受け取る「(在職)老齢年金」などのルール変更
60〜64歳で働きながら年金を受給している人は、年金と給料の合計額が「28万円」を超えると年金が減額さていましたが、今回の改正でその上限が「47万円」に緩和されました。
※令和5年6月15日支給分(4月分・5月分)の年金から在職老齢年金の基準額は、「48万円」に変更。
参考:年金をもらいながら働くと「働き損」?/在職老齢年金受給者が知っておきたいこと
また、これまで老齢厚生年金の受給者が厚生年金の被保険者である場合、65歳以降に納めた保険料分の年金は資格喪失時(もしくは70歳到達時)に改定されていましたが、在職中であっても毎年10月分からの年金額を改定する仕組みに改められました。
② 老齢年金の受給開始年齢の引き下げと繰上げ支給の減額率の見直し
老齢年金の受給開始年齢は原則「65歳」ですが、本人が希望すれば60〜70歳の間で受給開始年齢を選ぶことが可能です。その受給開始年齢が最大で「75歳」まで引き下げられました。
また、60〜65歳までに老齢年金を受取る場合は「1ヶ月につき0.4%の減額(改正前は0.5%の減額)」、65〜75歳までは「1ヶ月につき0.7%の増額」と、65歳前に年金を受取る場合の減額率が引き下げられました。
今回の改正により、60歳で老齢年金を受け取る場合には年金受給額が最大24%の減額。75歳まで受給を遅らせると最大84%アップとなりました。
参考:老後の安心❗️繰上げ・繰下げルールが改正/失敗しない老齢年金の受取り方について
③ 厚生年金適用者の拡大
夫婦共働きが一般的となってきており、短時間勤務のパートやアルバイトの人も厚生年金に加入できるよう、加入要件が見直しされました。
適用対象となる事業所の要件も適時見直しが行われ、「従業員数501人以上」から「101人以上」に。さらに、令和6年10月には「51人以上」に引き下げが行われます。
適用の対象となる短時間労働者は、以下の条件全てに該当する人です
・週の所定労働時間が20時間以上
・月額賃金が8.8万円以上
・2ヶ月を超える雇用見込みがある
・学生ではない
【 2022(令和4)年の年金改正の主なポイント 】
実施時期 | 改定項目 | 内容 |
2022(令和4)年4月 | 60歳前半の在職老齢年金の緩和 | 「年金+給料」が28万円を超すと減額されていたが、47万円まで減額なし |
2022(令和4)年4月 | 65歳以上の在職老齢年金の改定 | 65歳以降に納めた厚生年金保険料を毎年10月からの年金額に反映 |
2022(令和4)年4月 | 繰上げ支給の減額率の引き下げ | 減額率が月0.5%→0.4%に引き下げ |
2022(令和4)年4月 | 繰下げ支給開始年齢の引き下げ | 増額率月0.7%と変更はないが、75歳まで繰り下げ可能に |
2022(令和4)年10月 | 厚生年金の適用拡大 | 労働者が101人以上の企業に拡大 ・週20時間以上 ・給料8.8万円以上 ・雇用期間2ヶ月以上の被保険者に適用 |
2024(令和6)年10月 | 厚生年金の適用拡大 | 労働者が51人以上の企業に拡大 |
まとめ(老後資金を考える)
老後2,000万円問題により、老後の生活費についての関心が急激に集まっています。
しかし、子供の進学資金や住宅ローンなど「老後」以前に「今」対応するので精一杯なのに、急に「貯蓄額を増やせ」と言われても簡単にできるものではありません。
与えられた金額の中で生活習慣を身につけておく
資金を貯蓄に回すためには、まず行うのが家計の見直し。
特に、「安心」を求める余り過剰な保障と成りがちな「保険」や、スマホ代(通信費)などの「固定費」を見直すことからはじめましょう。
常に、「収入の範囲内で生活ができているか」を確認し、「必要ならばさらに費用の節約を考える」という、与えられた金額のなかで生活する姿勢を身につけることが大切です。
参考:まずは保険を整理して、定年後のお金を準備しよう! 「固定費」削減のポイントについて
自分の老齢年金を把握し「増やす」ことを考える
老後の収入の柱となるのは、やはり「老齢年金」になります。
まずは、「ねんきん定期便」などで自分が受け取れる年金額を大まかに把握し、「いくら足りないのか」を早いうちから把握しておきましょう。
また、誰もが健康に年をとることができるとは限りません。
老齢年金は「老後の収入の柱」ではありますが、「病気」や専業主婦(夫)の場合は「パートナーとの死別」などにより、収入の範囲内で生活できない場合も想定しておく必要があります。
老後の年金を増やすために出来ることは、「年収を上げる」こと、そして「長く働くこと」。
安易な転職を繰り返すことはせず、地道にスキルを磨き給料を上げる努力をすることは、老後の大きなアドバンテージになります。
もちろん、転職を否定するものではありませんが、退職金制度、年功序列や終身雇用、定期昇給といった終身雇用を前提としている日本型の働き方は根強く残っていることも事実。
「中堅」以降のサラリーマンは「安易な転職は老齢年金など老後の生活が不利になることがある」ということを、しっかり認識しておいてください。
また、国民年金の加入期間は40年間ですが、厚生年金は70歳まで加入し続けることができます。
先ほどの表にもありますが、定年後に「年収150万円で5年間」働けば、老齢厚生年金が死ぬまで年額4万円アップします。
若いうちから「健康」にも気を使う必要がありそうです。
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