日本政策金融公庫が2021年12月20日に発表した「教育費負担の実態調査結果」によると、大学進学時の入学金などの費用(入学金・受験費用など)と授業料などの在学中の費用(授業料・教科書代・通学費など)の合計額は、以下のとおりです。
国公立大学 | 約481万円 |
私立大学(文系) | 約690万円 |
私立大学(理系) | 約822万円 |
大学へ進学するには、まとまったお金が必要です。今回は、「進学の準備」と言えば思いつく、「学資保険」についてまとめてみます。
最近、人気がない学資保険
少し前までは、貯蓄をしながら、生命保険のような保障も受けられる学資保険は人気がありましたが、今では15〜18年ほど積立ても返戻率が10%程度と低く、魅力が低下しました。
返戻率
返戻率(%)=学資保険から受け取れる受け取り総額÷保険会社に支払った保険料×100
子どもの誕生から「満期」を大学進学の時期にあわせると、積立期間は「おおむね15~18年」。10年以上も加入して1割程度しか資金が増えないうえに、途中で解約したら元本割れの可能性も。
そのために、「メリットが少ない」と考える人が多くいるようです。
また、学資保険のウリの一つでもある「生命保険のような保障」についても、普通の保険商品(生命保険や医療保険)と比べると「万が一」の保障金額や保障内容が乏しいと感じ、生命保険と資産運用を別で行う方が効率が良いと考える人が多いようです。
学資保険を選ぶポイント
最近、返戻率が低くなり魅力が低下した学資保険ですが、教育資金を「計画的に準備できる」「普通の預貯金より利回りが良い」などの理由で、根強い支持があります。
「貯金するのが苦手」という人には合っているのかもしれませんね。
たしかに、「続けないと損をするが、満期には約束した金額が返ってくる」という学資保険は、半ば強制的に教育資金を用意することができるため、進学の準備を計画しやすいというメリットも。
学資保険を利用して教育資金の準備を考えている人は、以下の点に注意して学資保険に加入しましょう。
保障はシンプルに
「学資保険」の仕組みは、生命保険に似ています。
最近の学資保険は「返戻率」が低下したため、子どもが病気やケガをして入院・手術をした際に給付金がもらえる「特約」や、親(契約者)が亡くなった時に一定期間年金が受け取れる「特約」など、「進学準備」以外に多くの「特約」が付いているものが多くあります。
しかし、「特約」があるということは、その分保険料が高くなるということ。
多くの自治体で子育て支援制度が充実してきており、子ども(特に就学前の子ども)の医療費が無料となっているところがほとんどです。
また、親が生命(死亡)保険や収入保障保険などに加入しておけば、親に「万が一」があったときには親の保険で保障されるので、「学資保険の特約」は必要はありません。
参考:人生の「もしも」に備える❗️2タイプの死亡保険の特徴と選ぶ時のポイントについて
学資保険に加入する目的が「教育資金を準備すること」ならば、いろいろな「特約」は無くして保障内容をシンプルに、そして少しでも返戻率の高いものを選ぶのが良いでしょう。
「早く始める」て「早く終える」
また、「早く始める」ことも大切です。
たとえば、「子どもが大学に進学する18歳までに200万円貯金しよう」と決めても、貯金を始める時期が遅くなれば遅くなるほど、月々の生活を苦しくなります。
開始時期 | 必要な年額 | 月 額 |
子どもが「0歳」のとき | 200万円÷18年間=111,111円/年 | 9,259円/月 |
子どもが「5歳」のとき | 200万円÷13年間=153,846円/年 | 12,820円/月 |
子供が「10歳」のとき | 200万円÷8年間=250,000円/年 | 20,833円/月 |
多くの学資保険では、加入できる年齢を制限(多くの商品が6歳まで)しています。
とにかく、加入すると決めたのなら「早く始めること」が大切です。
また、「保険料の払い込みを早く終える」と返戻率が高くなります。
「保険料を短期間に払い終えてること」には、子どもが成長するにつれて増える生活費や塾などの教育にかかる費用の負担にも対応しやすくなるなどのメリットもあります。
学資保険の「受け取り方」には、保険会社によって様々です。例えば、大学進学時をターゲットにした「一括で受け取る」タイプのものや、高校進学や大学卒業後も「祝い金」を受け取れるタイプのものなど、契約内容によって返戻率に差があります。
学資保険は、保険会社によって契約内容・プランによって返戻率もさまざまです。しかし、学資保険の目的が「貯蓄」であれば、「返戻率」を意識して、少しでも返戻率が高い商品を選択した方が良いでしょう。
知っておきたい学資保険のデメリット
学資保険に加入の際には「返戻率」以外にも、いくつか知っておくべき注意点があります。
多くの学資保険は中途解約した際に戻ってくるお金は、それまでに払い込んだ保険料よりも少ない額になるように設定されています。
「確実に貯めることができる」というメリットがある反面、契約後にもっと良い商品があったとしても途中で解約すると元本割れするリスクがあるという、選ぶのが難しい商品です。
元本割れリスク
「元本割れ」とは、払い込んだ保険料より、受け取る保険金が少なくなることです。
学資保険は子どもの成長に合わせて保険金を受け取るので、保険期間が長く設定されています。そのため、加入から数年で解約すると「元本割れ」が発生します。
満期まで解約しなければ教育資金を貯めることができますが、契約後にもっと良い商品が発売されても解約してしまうと「元本割れ」してしまうため、他の保険に乗り換えることが難しい保険です。
インフレ非対応
多くの学資保険は、契約時に「返戻率」が決まっているので、受け取る保険金やお祝い金の額も初めから決まっています。
そのために、契約期間中に物価が上昇してお金の価値が下がってしまう「インフレ」が起こってしまうと、「せっかく長い間をかけて貯めたのに、教育資金が足りない!!」という事態が想定されます。
学資保険にかかる税金
学資保険から受け取る保険金には、税金がかかります。
保険料を払った人(通常は契約者)と満期保険金などを受け取った人が同一人物の場合は、受け取り方によって「一時所得」か「雑所得」が課税されます。
一時所得が発生するケース
満期保険金を「一括」で受け取った場合は、満期保険金に対し「一時所得」が課税されます。
課税される所得=受け取った満期保険金ー払い込んだ保険料ー特別控除額(最高50万円)×1/2
所得税の速算表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円以上、330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円以上、695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円以上、900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円以上、1800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1800万円以上、4000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
たとえば、
・払い込んだ保険料の総額が300万円
・受け取った満期保険金が360万円の場合の一時所得にかかる税金は、
(受け取った保険金)360万円 ー(払い込んだ保険料)300万円 ー50万円(特別控除)=10万円×1/2 =5万円
5万円が「課税される所得金額」となるので、5万円 ×5% =2,500円
一時所得で受け取る場合の税金は、2,500円ですね。
雑所得が課税されるケース
満期となった学資保険を「年金(毎年)受け取り」とした場合の税金は、「雑所得」になります。
ちなみに、老齢年金にも雑所得が課税されています。
雑所得=収入(年金として受け取った学資保険)ー必要経費(払込んだ保険料)
雑所得は、一時所得のような50万円の特別控除や課税される所得を1/2にすることもありません。
たとえば、
・払込保険料は300万円(60万円/年)、学資金は5年間で360万円(72万円/年)を受け取る場合の雑所得の場合を計算してみます。
(年金方式で受け取った年金額)72万円ー(払い込んだ保険料年額)60万円=12万円
「12万円」が雑所得に係る所得税の課税対象です。
毎年の所得税は、12万円×5%=6,000円ですね。
5年間なら6,000円×5年間=3万円、年金方式の方が税金を多く支払う必要がありますね。
保険金を「一括」で受け取る方が、「年金方式」で受け取るより税金の面でのメリットがあります。
まとめ
効率良く資金を貯めるなら「学資保険」にこだわる必要なし
教育資金を貯めるという点にフォーカスすれば、学資保険は効率的ではありません。途中でやめらられない、返戻率は低い、インフレ非対応などなど。。。
「預貯金」などでコツコツと貯めれば途中でおろすこともできます。また、生命保険の一種である終身保険などの「返戻率の良い商品」を学資保険代わりに加入して、進学の時期に合わせて解約しすれば、まとまった額を用意することができます。
また、NISAの非課税メリットを活かして学資金を用意すという方法も有効です。
参考:貯蓄から投資へ❗️でも、証券会社が「もしも」のとき、私の「株(資産)」はどうなるの?
学資保険は、途中解約すると「元本割れ」するため、預貯金が苦手な人には「良い商品」です。
誰だって「損」はしたくないですから。
子どもの教育資金には、多くのお金が必要です。
学資保険には、子どもの契約年齢に制限があるものが多くあり、満期までの時期が短くなればなるほど、月々の負担が大きくなります。
現状、低金利が続いていますが、学資保険の利用を考えている人は、月々の負担を軽くするためにも、早めに検討することをおすすめします。
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