「60歳で定年して、ゆっくり過ごそう」って時代も今や昔の話。
政府は2013(平成25)年に「高年齢者雇用安定法」を改正、会社に対して2025(令和7)年4月までに65歳までの雇用確保を義務づけました。
人生100年。「老後」の期間が長くなった分、今までよりお金に対する知識が重要になっていると考えるべきです。
そこで、気になるのが当面の「生活費をどうするか」。定年後の「給料」は、少しでも多くもらいたいところです。
多くの会社では「定年後再雇用制度」を導入。勤務時間や仕事内容を変更することで、再雇用前と比べ給料を下げているのが一般的です。
しかし、給料が下がっても、社会保険料にはすぐには反映されず、従前の高い保険料を支払っている人もいます。
今回は、定年後再雇用時に行われる手続きで健康保険や厚生年金などの社会保険料の資格喪失と資格取得を同じ日に行う「同日得喪」について、まとめてみます。
同日得喪は義務ではない
「同日得喪」とは、定年後再雇用制度を導入している会社において、定年退職した従業員を1日も空けることなく再雇用した場合に行われる手続きです。
定年退職した従業員の給料が定年前と比べ下がった場合、資格取得手続きと資格喪失手続きを同時に行うことによって、社会保険料も給料に合わせて改定する(保険料負担を減らす)ことができるというもの。
つまり、定年退職後の給料に差がない場合は、社会保険料の差もないため、同日得喪の手続きを行う必要はありません。
もし、同日得喪を行わずに通常どおり「月額変更届(随時改定)」で処理を行った場合は、保険料の改定まで3ヶ月の経過を待つことになりますが、同日得喪を行った場合は、すぐに保険料を改定することができます。
参考:初任給から保険料が引かれないって本当❓公的医療保険の「保険料」の決め方と「改定」のタイミングについて
定年後の給料が減額となり、標準報酬月額が50万円から30万円となった場合
(令和4年度の場合)
・健康保険料:9.76%(4.88%)
・介護保険料:1.64%(0.82%)
・厚生年金保険料:18.3%(9.15%)
健康保険料(介護保険料含む)28,500円 → 17,100円 (▲11,400円)
厚生年金保険料 45,750円 → 27,450円 (▲18,300円)
※1ヶ月あたりの軽減額=29,700円
※3ヶ月の軽減額=89,100円の社会保険料の負担軽減
同日得喪のメリット&デメリット
定年後再雇用により、従業員の給料が定年前よりも低下した場合、随時改定を待つよりも同日得喪の手続きをすることで社会保険料が軽減されますが、デメリットも考えておく必要があります。
メリットについて
会社、従業員の社会保険料負担が軽減される
定年後再雇用で定年後に勤務を続ける場合は、勤務時間や仕事内容の見直しにより再雇用前と比べ給料が下がるのが一般的です。
しかし、給料が下がっても、すぐに社会保険料は減額されません。
しばらくの間は、会社・従業員ともに「定年前」の高額な社会保険料を負担しなければならないことになりますが、特例として認められているのが同日得喪の手続きです。
これにより、再雇用された月から、再雇用後の給与に応じて標準報酬額を決定することができるため、会社・従業員ともに社会保険料の負担を軽減することができます。
デメリットについて
年金額は下がるが、保険料の削減分の方が大きい
厚生年金は標準報酬月額と加入期間によって年金額が決まります。そのため、標準報酬月額が高いほど年金額は多くなります。
参考:わたしの老後の年金って「いつから」、「いくら」もらえるの?
「同日得喪」を行うと、随時改定が行われるのを待つより3ヶ月早く改定を行うため、その分(3ヶ月分)将来受け取る年金額が低くなります。
なお、同日得喪は標準報酬月額が1等級変更されただけでも行うことができるため、随時改定に該当していない人の場合は、標準報酬月額変更の影響が3ヶ月以上になる場合もあります。
参考:初任給から保険料が引かれないって本当❓公的医療保険の「保険料」の決め方と「改定」のタイミングについて
健康保険は保険料が減っても、受けられる医療の内容や自己負担の3割には変更がありません。
ただし、標準報酬月額が下がると各種給付金の額も減少する可能性があります。
たとえば、傷病手当金の支給額は、支給開始日以前の継続した12ヵ月間の各月の標準月額の平均÷30日×2/3。そのため、標準報酬月額が低下すると、受け取れる傷病手当金の額も下がってしまいます。
厚生年金は「わずかに年金が減額する」、健康保険料は「わずかに給付金が減額する」ことを理解し、保険料の削減分と比べメリットの多い方を選択すると良いでしょう。
参考:【2022年1月改正】支給期間の「数え方」に変更あり‼️「傷病手当金」について
必要な手続き
同日得喪手続きは、「資格取得届」と「資格喪失届」を同時に会社から管轄の年金事務所または健康保険組合に提出します。
添付書類としては、従業員の健康保険被保険者証と、就業規則(定年についての記載がある箇所)や再雇用契約書などが必要です。
同日得喪とは、従業員が退職後1日の空白もなく継続して再雇用されている場合に認められる特例の手続きであるので、退職日と再雇用されたことが証明できる書類の提出が求めらるます。そこで、就業規則や再雇用契約書などが必要となるわけです。
健康保険被保険者証は、届出が終わると新しい健康保険被保険者証が発行されます。
扶養家族がいる場合は、会社からは全員分の健康保険証の返却を求められるので、用意しておきましょう。
まとめ
同日得喪の手続きは義務ではない
現在は経過措置期間となっていますが、2025(令和7年)年4月から65歳までの雇用確保が義務となります。
そのため、会社は雇用確保のため①65歳までの定年の引き上げ、②65歳までの雇用継続制度の導入、③定年の廃止、のいずれかの措置を取る必要があります。
このうち、中小企業で最も導入されているのが「②65歳までの雇用継続制度の導入(定年後再雇用制度)」になりますが、再雇用した従業員の社会保険料を定時決定や随時改定まで変更しないでおくと労使双方の社会保険料の負担が大きくなってしまうケースがあります。
このようなケースを解消する手段として、「同日得喪」という手続きが行われます。
同日得喪は、従業員を1日も空けることなく再雇用し給料が下がった場合に、資格取得手続きと資格喪失手続きを同時に行うことによって賃金の改定に合わせて保険料を改定することができる制度。
したがって、改定前と改定後で保険料に差がなく、同日得喪の手続きを行うメリットがない場合は必ずしも行う必要はございません。
また、同日得喪は、従業員の申し出による「任意の手続き」です。手続きを行う際は、従業員に対しメリット&デメリットをしっかり説明し、理解してもらったうえで手続きをすすめるようにしましょう。
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