令和5年度の老齢基礎年金の満額が、68歳以上の既裁定者が792,600円、67歳以下の新規裁定者の年額は795,000円と増額改定されました、
これは、2023(令和5)年1月20日に総務省が公表した「令和4年平均の全国消費者物価指数」(生鮮食品を含む総合指標)を受けて、厚生労働省が令和5年度(2023年度)の年金額を
・新規裁定者は令和4年度から2.2%の引き上げ
・既裁定者は令和4年度から1.9%の引き上げ
することを決定したからです。
でも、なぜ改定率が異なっているのか?、保険料も上がったのか?など、いろいろ疑問を持った人もいると思います。
今回は、「新規裁定者と既裁定者の違い」や「年金改定の仕組み」などについてまとめてみます。
2023(令和5)年度の年金額について
令和5年度の老齢基礎年金額は増額
老齢基礎年金は、賃金や物価の変動に応じて毎年度改定を行う仕組みになっています。
法律上の年金額(780,900円)に改定率を掛けて計算されまが、この改定率は、前年度の改定率に、名目手取り賃金変動率または物価変動率と、マクロ経済スライド調整率を掛けることによって算出されます。
ちなみに「名目手取り賃金変動率」とは、2年度前から4年度前までの3年度平均の実質賃金変動率に前年の物価変動率と可処分所得割合変化率を乗じたもので「可処分所得スライド」と呼ばれています。
改定率=前年度改定率×名目手取り賃金変動率(または物価変動率)×マクロ経済スライド調整率
年金の改定率は、67歳以下の人(新規裁定者)の年金額は名目手取り賃金変動率を、68歳以上の人(既裁定者)の年金額は物価変動率を用いて改定されるのが原則です。
令和5年度の年金額改定に用いる名目手取り賃金変動率は2.8%、物価変動率は2.5%、マクロ経済スライドが▲0.6%なので、年金額の改定率は、新規裁定者は2.2%引き上げ(名目手取り賃金変動率2.8%−0.6%)、既裁定者は1.9%引き上げ(物価変動率2.5%−0.6%)と増額することになりました。
また、名目手取り賃金変動率と物価変動率が異なっているため、新規裁定者と既裁定者の老齢基礎年金に差が生じることになりました。
なお、今回の改定は6月の受け取り分から反映されます。
改定率 | 老齢基礎年金額 | |
新規裁定者 (67歳以下) | 1.018 (令和4年度の改定率0.996×1.022) | 795,000円 (780,900円×1.018) |
既裁定者 (68歳以上) | 1.015 (令和4年度の改定率0.996×1.019) | 792,600円 (780,900円×1.015) |
なぜ新規裁定者が67歳以下、既裁定者が68歳以上の人なのか?
老齢基礎年金の支給開始年齢は、原則65歳なので「新規裁定者」とは65歳未満の受給権者のことを、「既裁定者」とは65歳以上の受給権者のことを指します。
しかし、実際には新規裁定者の年金額の改定の指標となる可処分所得スライドは、賃金の伸びの実績が出るのが2年遅れとなるため、また賃金の伸び率を平準化するために3年平均をとることになっているので、64歳に到達する年度(65歳未満)の手取り賃金の伸び率は、67歳に到達する年度に行われる年金額改定ではじめて反映されることになります。
そのために、実際には、67歳に到達する年度までが新規裁定者として可処分所得スライド、68歳に到達する年度以降が既裁定者として物価スライドを用いて年金額を改定することになります。
○新規裁定者(67歳以下の人)=1人当たり手取り賃金の伸び率でスライド
○既裁定者(68歳以上の人)=物価の伸び率でスライド
令和5年度の国民年金保険料は?
令和5年度は減額、令和6年度は増額
令和4年度の国民年金保険料は16,590円でしたが、令和5年度は16,520円(令和4年度と比べ▲70円減額)、令和6年度は16,980円(同390円増額)となっています。
なお、国民年金保険料には2年前納の制度があるため、翌年度分も発表されます。
「2年前納」を利用すると毎月納付する場合に比べ、2年間で15,000円程度の割引になります。 平成29年4月からは、これまでの口座振替に加え、新たに現金・クレジットカード納付による2年前納を行うことが可能です。
ちなみに、厚生年金保険料(18.3%)には変更はありません。
在職老齢年金の支給停止基準額も48万円に変更
厚生年金に加入しながら受け取る老齢厚生年金のことを在職老齢年金といいます。
在職老齢年金には「支給停止基準額」が定められており、基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止基準額を超えると、年金の一部または全部が支給停止になってしまいます。
参考:年金をもらいながら働くと「働き損」?/在職老齢年金受給者が知っておきたいこと
令和4年度の在職老齢年金の支給停止基準額は47万円でしたが、令和5年4月からは、48万円に変更されています。
まとめ
今回の改定で「自分の老後」を考えるきっかけに!
令和5年度の老齢基礎年金額については、68歳以上は満額で月6万6,050円(4年度と比べ1,234円増額)、67歳以下では月6万6,250円(同1,434円増額)の増額されました。
障害基礎年金や遺族基礎年金の子の加算額で用いる改定率は、新規裁定者の改定率を使って計算しているので、2人目までの加算額は228,700円(4年度と比べ4,000円増額)、3人目以降の加算額は76,200円(同1,300円増額)と増額変更されています。
参考:人生の「もしも」を支える❗️障害年金の受給要件や年金額について
しかし、この増額はマクロ経済スライド(▲0.6%)の影響で物価上昇分(2.5%)には追い付いていないため、実質的には「▲0.6%」使える年金が目減りしています。67歳以下の新規裁定者では「▲0.3%」の目減りです。
マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役世代の人口減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みのこと。
年金の支給額を抑えるのが役割であるためいいイメージがない「マクロ経済スライド」ですが、これは2017(平成29)年に厚生年金の保険料の引上げをやめることに伴って導入した制度です。
つまり、年金保険料だけで年金財政を維持するのではなく、給付水準の引き下げも行うことで年金財政の健全化を維持するために導入された制度なので、年金をもらっていない世代(現役世代)の保険料負担を軽くしているという役割も担っています。
マクロ経済スライドによる年金支給額の抑制は、緩やかな物価上昇の局面ならば家計の節約などで対応が可能でしょう。
ただし、急激に物価が上昇し続けているような状況下にあっては、個人の節約だけで乗り切るのは困難となるため「不満が溜まりやすい制度」であるとも言えます。
令和5年度の老齢基礎年金額などは物価の上昇などを受けて、前年度よりも増額になりました。
しかし、新規裁定者と既裁定者で年金額が異なったのは初めてのこと。また、現役世代と年金受給世代との均衡を図るため、いまの物価高に完全には対応できていない点などは意識しておく必要があります。
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