2023(令和5)年3月31日、政府は2030年までを少子化対策のラストチャンスとし、今後3年間に集中して取り組む政策のたたき台として、以下のような「こども・子育て支援加速化プラン」を発表しました。今後どのような形になっていくのか注目です。
・子育て世帯の公営住宅への優先的な入居や、住宅ローン・フラット35の金利負担軽減の充実。
・授業料の減免や給付型奨学金について、多子世帯や理工農系の学生等に新たに「授業料後払い制度(仮称)」を修士課程の学生を対象に導入。
・両親ともにそれぞれ育児休業を取得した場合、その期間の給付率を手取りで10割へ引き上げ。
・その他、出産費用の保険適用導入の検討や学校給食費の無償化に向けて課題を整理。
この「異次元の少子化対策」がとられる背景には、「深刻で静かなる危機」と言われる急激な少子化による経済規模の縮小があります。
国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集2017年改訂版』によれば、日本の将来の人口は、
2020年 1億2532万人(177万人減)
2025年 1億2254万人(278万人減)
2030年 1億1912万人(342万人減)
2035年 1億1521万人(391万人減)
2040年 1億1091万人(430万人減)
2045年 1億642万人(449万人減)
2050年 1億192万人(450万人減)
と人口減少数が加速していき、2053年には1億人の大台を下回る9924万人と予測されています。
今回は、「妊娠や出産・育児」に係るルールおよび「賃金保障や社会保険料の負担軽減」について、まとめてみます。
妊娠中の従業員が利用できる制度
通院休暇や労働時間等の制限、通勤緩和など
会社は、妊産婦である従業員が保健指導や健康診査に行くのに必要な時間を希望した場合には、通院休暇などを与える義務があります(男女雇用機会均等法12条)。
その他にも、会社は妊産婦からの申し出があった場合には、時間外労働、休日労働、深夜業をさせることができません。また、変形労働時間制が採用されている会社であっても、1日8時間、1週40時間超の労働をさせることはできせん。
しかし、妊産婦であっても管理監督者に該当する人は、時間外労働、休日労働の制限が適用されません。深夜業のみが制限されるとこになります。
なお、健康診査を受け医師の診断書などがだされた場合には、その指導にしたがって、通勤の緩和や休憩時間の延長などの措置を取る必要があります(男女雇用機会均等法13条)。
産前産後の休業などはどうなってる?
産休は産前6週間、産後8週間
会社には、産前産後に休業を与える義務があります(労働基準法65条1および3項)。
従業員が妊娠し、本人が申し出を行なったとき、会社は「産前6週間・産後8週間」は休暇を与えなければなりません。
ただし、産後6週間後からは、本人の希望と医師の許可があれば復職することは可能です。
「出産」とは
出産とは妊娠4ヶ月以上(1ヶ月は28日として計算、85日以上)の分娩をいい、「死産」や「流産」も含まれます。出産当日は、産前6週間に含めます。
また、子が1歳に達するまでは、1日2回おのおの30分の育児時間(1日の労働時間が4時間以内の場合は、1日1回)を請求することができます(労働基準法67条)。
産前産後中の社会保険料などはどうなる?
保健指導時の通院休暇には法律による補填がないため、会社によっては「無給」となる場合がありますが、出産育児一時金は出産費用の補填、出産手当金は産前産後休業中の給与補填として、健康保険から支給されます。
出産育児一時金の支給額
被保険者または被扶養者が出産したときには、費用補助として1児につき50万円が健康保険より支給されます。
参考:出産育児一時金と後期高齢者医療制度の保険料増額の影響について
出産育児一時金は、出産にかかった費用を病院などに支払った後で健康保険に請求していましたが、2009(平成21)年10月より、病院などが被保険者に代わって直接、健康保険に請求する制度が導入されました。
これを「直接支払制度」といい、これにより出産費用が出産育児一時金の範囲内であれば、現金での支払いがなくなりました。
なお、よく似た名称で「出産・子育て応援交付金」というものがあます。
これは、市区町村が赤ちゃんが生まれた人を対象に10万円相当の現金やベビー用品・ベビーシッター費用などに使えるクーポンを支給したり、相談などの支援も無料で行うというものです。
産休中は出産手当金が支給
出産のため会社を休んでいて給料を受けることができない「産前42日(多胎児は98日)、産後56日」の間は、健康保険から出産手当金が支払われます。
支払われる金額は標準報酬月額の3分の2(概ね給料の67%)で、この休業には所定休日も含まれます。
また、休業中に給料の支払いがあったときで「給料のほうが出産手当金の給付日額より少ない場合」には、その差額分が支給されます。
出産のため会社を退職した人でも要件を満たせば、出産手当金、出産育児一時金が支給されます。
○出産手当金
退職日までに被保険者が継続して1年以上あり、退職日までに出産手当金の支給を受けているか、受けられる状態であれること。
任意継続被保険者であっても、資格取得日の前日まで引き続き被保険者期間が1年以上あること。
○出産育児一時金
退職日までに、継続した被保険者期間が1年以上あること。
産休中の社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の免除
産休中の社会保険料は、会社と被保険者負担分が双方とも免除となります。
会社から年金事務所などに「産前産後休業取得者申出書」の届出が必要となるため、出産日確定後に申請するのが一般的です。
産休が終わったら育児休業
育児休業制度の概要
産休が終わり、出産後57日目から子どもが1歳になるまでは、本人から申出があれば男女を問わず育児休業を与えることが義務付けられています。
この期間内であれば、従業員は休業期間を自由に決めることができます。
また、以下のような事情で復職が難しい場合は、子どもが1歳6ヶ月になるまで育児休業を延長することができます。
①保育園に空きがなく子どもを預ける場所がない
②養育する予定の人が、病気やケガをした
平成29年10月1日の法改正により、1歳6ヶ月の時点で上記事情で復職が難しい場合は、さらに子どもが2歳になるまで育児休業を延長することができます。
期間従業員も育児休業はとれるのか?
契約社員やパート従業員などの期間従業員も、あらかじめ契約更新回数が決められているケースと契約更新がない場合で、1歳6ヶ月までに労働契約が満了するケースを除いて、育児休業を取得できます。
賃金保障と社会保険料は?
育児休業中は、雇用保険から育児休業基本給付金が支払われます。
受給期間は、育児休業開始日(通常、産後57日目)から、子が満1歳に至るまでの期間でしたが、育児休業が2歳まで延長されたことにより、育児休業給付金も2歳まで受給できるようになりました。
受給要件は次のとおりです。
①休業開始前2年間に賃金支払基礎日数11日以上の月が12ヶ月以上あること
②休業中に賃金の支払いがないこ、また8割未満にダウンしていること
③就業日数が、各月に10日以下であること
育児休業基本給付金の支給額は?
休業前の賃金月額(休業開始時賃金日額)の67%(育児休業の開始から6ヶ月経過後は50%)相当額が支給されます。
休業開始時賃金とは
育児休業もしくは介護休業の開始前6ヶ月間の賃金の総額を180で割ったもので、育児休業給付や介護休業給付の支給額算定の基礎になります。
なお、女性が育児休業を取ったために給料が低くなっている場合は、産前休業取得前6ヶ月間の賃金総額を180で割ったものを算定の基礎とするケースが多くなります。
育児休業中の社会保険料はどうなる?
育児休業期間は保険料免除
育児休業期間(最長、子どもが3歳になるまで)は、社会保険料が全額免除されます。
職場復帰したあとも優遇がある
職場復帰後は、社会保険料の負担が再開します。復帰直後は勤務時間の短縮などで給料が下がるのが一般的です。
このような場合には、通常「随時改定」が行われ標準報酬月額の等級変更が行われますが、「産前産後休業・育児休業等終了等報酬月額変更届」を年金事務所等に提出すれば、1等級でも差が生じた場合に改定が行われ、社会保険料が減額されます。
参考:初任給から保険料が引かれないって本当❓公的医療保険の「保険料」の決め方と「改定」のタイミングについて
しかも、「養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出しておけば、将来受け取る年金は、この減額された期間も従前と同額の保険料を支払ったものとして計算されます。
これが「養育期間中の標準報酬月額給特例措置」で、子どもが3歳まで認められます。
まとめ
住民税対策を忘れずに!会社は多様化する働き方に対応した環境整備を
住民税は前年度所得に対して課税されるため、育児休業となっても同額を支払い続ける必要があります。しかも、産前産後や育児休業中で給料の支払が行われない場合では、会社からの給料天引きができないため、自分で支払わなければなりません。
休業期間中の住民税の納付方法としては、①住民税の残りを一括して支払う、②特別徴収を継続して会社が指定する口座に毎月振り込む、③普通徴収に切り替えて本人が毎月納める、とう3つの方法があります。妊娠・出産であっても負担が変わらないものもあるので、注意が必要です。
参考:春は「転勤」の季節!会社が行う税金や社会保険の手続きの話
また、男性社員の育児休業は、まだまだ低い水準にあります。
しかし、両親がともに育児休業を取得する場合は、「パパ・ママ育休プラス」が適用されます。
「パパ・ママ育休プラス」は、原則として子どもが1歳までである休業可能期間を、子どもが1歳2カ月に達するまでに延長できる特例です。
母親の職場復帰のサポートとして父親が育児休業を取得するといった活用方法も想定されるため、会社は、男性社員が育児休業を取得しやすいよう就業規則など整えておく必要があります。
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