厚生労働省が発表している2021(令和3)年の平均寿命は、男性が81.47歳、女性が87.57歳。そして日本人の2人に1人がその一生のうちに「ガン」になると言われています。
ガンの気になるもう一つの数字は、ガンで死亡する確率。男性26.7%、女性17.9%、男性は4人に1人、女性は6人に1人です。
今回は、ガン治療に役立つ公的医療や、ガン治療への備えなどについて、まとめてみます。
「ガン」と診断される人が増える年代は?
日本人が、ガンと診断される確率は、男性65.5%、女性51.2%と、どちらも2人に1人です。
また、「人口動態統計(確定数)」(2021年)による死因のトップは「悪性新生物(ガン)」が最多で、26.5%。 次に「心疾患」14.9%、「老衰」10.6%、「脳血管疾患」7.3%、「肺炎」5.1%の順に続いていきます。
しかし、国立がん研究センターがん対策情報センターのデータによれば、たとえば30歳男性なら、10年後の40歳までにガンと診断される確率は0.5%。20年後の50歳で2%、30年後の60歳でも7%と、現役世代がガンになる確率は、10人に1人以下というデータもあります。
また、2006年から2008年に診断された人のうち、完治の目安とされる「5年相対生存率」は全てのガンの平均で6割を超え、前立腺ガン、乳ガン、皮膚ガン、甲状腺ガンのように9割を超えるものもあります。ガンは、いまや長くつきあう慢性病なのです(国立がんセンター:がん情報サービス一般の方へより抜粋)。
このことから、統計的に「2人に1人がガンになる」のは、80歳を過ぎてからのことであり、全員がガン亡くなっているわけではないことが分かります。
なお、ガンと診断される一番多い部位は、男性は「前立腺ガン」、女性は「乳ガン」。これは、診断技術の向上とガン検診の普及に伴い、早期発見が可能となったからからです。
がん罹患数の順位(2019年)
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 備 考 | |
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総数 | 大腸 | 肺 | 胃 | 乳房 | 前立腺 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、 結腸3位、直腸6位 |
男性 | 前立腺 | 大腸 | 胃 | 肺 | 肝臓 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、 結腸4位、直腸5位 |
女性 | 乳房 | 大腸 | 肺 | 胃 | 子宮 | 大腸を結腸と直腸に分けた場合、 結腸2位、直腸7位 |
前立腺ガンについては、50代から患者数が増え始め70代を超えるころに「男性がガンの1位になる」と言われています。
「50代から患者数が増え始める」原因としては、高齢化や食生活の欧米化などの他に、腫瘍マーカー検査の普及だと考えられています。
乳ガンは30歳台後半から増加し始め、40歳台後半から50歳台前半でピークになり、さらに閉経後の60歳台前半で再びピークを迎える傾向があります。
これは、乳ガンは高齢化が影響するのではなく、働き盛りの年代の女性を襲うガンであることを示しています。
どちらも現役世代を襲う可能性がある「ガン」であるため、早期にガンを見つけて治療を行うことが重要です。
ガン検診
ガン検診の受検を習慣化させる
ガン検診により、ガンの病状が進む前にガンが発見され治療を始めれば、死亡リスクを減らすことができます。ガン検診を受検することを習慣化させることが、ガンへの備えの第一歩であり、もっとも有用な備えでもあります。
厚生労働省は「ガン検診の受診率50%以上」を目標に、各地方自治体に対しガン検診を推進するよう働きかけています。そのため、費用が抑えられ受検し易くなっています。
「ガン」で治療を始めた時に使える公的医療保険など
ガン治療=「限度額認定証」の申請
治療は、手術や投薬による治療が一般的ですが、ガン治療に使う薬剤はジェネリックも普及してきていますが高額なものが多く治療費も高額になりがちです。
また、「ガン治療のための入院は、どのくらいの期間なのか?」というのも気になるところ。
年齢や治療内容などによって治療の期間は異なってきますが、厚生労働省の平成29年(2017)患者調査の概況によりますと、最長が15〜34歳の人が、肝及び肝内胆管の悪性新生物の治療を行った36.5日、最短は0〜14歳の乳房の悪性新生物で5.5日、全てのガンの平均の入院期間は17.1日という調査結果があり、入院治療の期間は年々短縮傾向にあります。
ガンの治療期間は短縮傾向にありますが、1ヶ月以上入院すると体力が著しく低下するために回復まで時間がかかります。
職場復帰には入院期間だけでなく、退院後のリカバリー期間も考慮しておく必要があります。
入院時の治療費やリカバリーのため仕事ができない期間の生活費などについて公的医療保険では、以下のような制度でガン治療をサポートしています。
高額療養費制度
治療費が高額になった場合、自己負担が高額になりすぎないよう「高額療養費」という制度があます。
入院や外来など医療機関に1ヶ月間(毎月1日~末日まで)で支払う費用には上限額が設定されており、医療機関や薬局の窓口で支払った自己負担額が、上限額を超えた際には、その超えた額について払い戻しを受けられる制度です。
参考:入院費用っていくら準備したらいいの?高額療養費制度について
医療費が高額になると事前にわかっている場合には、「限度額認定証」を提示すれば、病院での支払いを「自己負担限度額」までとすることができます。
傷病手当金制度
傷病手当金は、病気やケガの治療のため会社を4日以上休み「給与が受け取れない」状態にあるときには、給料の2/3の額が1年6ヶ月間支給される制度です。
傷病手当金を受け取る4つの要件
① 病気やケガで療養中である
② 仕事に就けない(労務不能)
③ 4日以上仕事を休んでいる
④ 給料の一部または全部が支払われない
令和4年1月1日からは、支給を開始した日から通算して1年6ヵ月に変更されました。そのため、療養中であっても試しに会社に出勤する「リハビリ出勤」がやり易くなりました。
なお、支給される金額は、
支給開始日以前の継続した12か月間の 各月の標準報酬月額を平均した額÷30(10円未満四捨五入)× 2/3 (1円未満四捨五入)となります。
しかし、一般的な国民健康保険には傷病手当金制度はありません。この制度を利用できるのは「協会けんぽ」や「組合健保」、「共済組合」など健康保険の被保険者になります。
労働基準法で定められている有給休暇も利用できる
有給休暇とは、会社を休んでも給料が支払われる休暇日のことで、労働基準法39条1項により定められている労働者の権利です。一定の要件を満たせば、ほとんどの会社員が利用することができます。
また、有給休暇を取得する場合には、法律上理由を伝える必要はなく「私用のため」という理由であっても問題はありません。
会社に入社して初めて有給休暇が支給される要件
・雇入れの日から6か月継続勤務をしたこと
・全労働日の8割以上出勤したこと
入社後、新たに有給休暇が支給される日数の要件
6か月間継続勤務して、上にある2つの条件を満たした場合は10日間の有給休暇が付与されます。
その後、1年半継続勤務した場合には「11日間」の有給休暇が、2年半継続勤務した場合には「12日間」の有給休暇が付与され、3年半以降は1年ごとに各2日加算した有給休暇が付与され最大で「20日(6年半継続勤務後)」の有給休暇が付与されることになります。(「労働基準法39条2項」)
この有給休暇も会社に所属していない、自営業者やフリーランスは使うことができません。
ガン治療の期間は短縮傾向にありますが、1ヶ月以上の治療期間や回復までの期間を考えると、3ヶ月程度の生活資金を確保しておくことが重要です。
がん保険を検討した方がいい人とはどんな人?
以上のことからも、ガンの備えは3ヶ月程度の生活資金を確保しておくこと、つまり貯金することです。
参考:定年後の資金づくりは保険の整理から⁈「固定費」削減のポイントについて
そのために、がん保険が必要となる人は、貯金に不安がある人や公的医療制度からのサポートが薄い自営業者などになってきます。
また、女性は早期に罹患するリスクがあるガンもあるため検討が必要です。
「貯蓄」の準備ができていない人
仮に、一般的な会社員が「大腸がん」と診断され標準的な治療を行なった場合に必要な費用を試算してみましょう。
(例)大腸ガンで1ヶ月間入院、高額療養費制度を利用。
退院後、となった場合、通院しながら点滴治療(抗がん剤治療)を3ヶ月行なった場合。
高額療養費を利用した場合の1ヶ月の入院費用は、一般的な家庭の場合だと約15万円必要です。退院後に外来で抗がん剤治療を継続した場合であっても高額療養費は利用できるので、月の医療費は9万円程度となります。
また、高額療養費には「多数該当」という制度があり1年間に3回以上高額療養費に該当すると自己負担の限度額が「44,400円」に下がります。
そのために、上記(例)の場合でかかる医療費は、
15万円(入院)+9万円(外来1ヶ月目)+9万円(外来2ヶ月目)+4.4万円(外来3ヶ月目)=37.4万円になります。
しかし、ガンの治療方法は、人によって違います。
手術前に化学療法を実施する場合や入院が長くなる場合、再発のリスクも考慮すべきでしょう。
そのため、貯金がいくらあれば「安心」とは言えません。しかしながら、「安心」を求めるあまり保障が充実すぎる民間保険に入ってしまうと保険料が高額になり、平常時の生活を苦しめる一因になってしまいます。
平均的な治療期間を参考に備えを考えたうえで、自分で負担できないと判断した部分は民間保険でカバーするなど、自分のルール決めて民間保険に加入すれば、保険料を無駄に支払うことはないでしょう。
自営業者やフリーランスの人
自営業者やフリーランスが加入している国民健康保険には、傷病手当金制度がありません。
また、万が一障害が残った場合に支払われる障害年金についても、国民年金の場合は障害等級が2級以上に該当しないと支払われないなど、会社員より公的な保障が手薄いので一層の備えが必要です。
貯蓄などで、短期的な備えができている場合あっても、仕事が出来なくなるような長期的な「もしも」に備えるには「就労不能保険」などの加入を検討した方が良いでしょう。
参考:人生の「もしも」に備える❗️所得補償保険と就労不能保険、収入補償保険との違いについて
障害基礎年金の年金額(令和5年4月分から)
1級
67歳以下の方 (昭和31年4月2日以後生まれ) | 993,750円 + 子の加算額※ |
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68歳以上の方 (昭和31年4月1日以前生まれ) | 990,750円 + 子の加算額※ |
2級
67歳以下の方 (昭和31年4月2日以後生まれ) | 795,000円 + 子の加算額※ |
---|---|
68歳以上の方 (昭和31年4月1日以前生まれ) | 792,600円 + 子の加算額※ |
※子の加算額
2人まで | 1人につき 228,700円 |
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3人目以降 | 1人につき 76,200円 |
参考:日本年金機構ホームページ、障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額より抜粋
30歳を超えたの女性
女性は若いときからガン罹患のリスクがある
がんは、2人に1人が罹患する病気とはいえ、がんに罹患する人が急上昇するのは「50歳を超えてから」ですが、女性の「乳がん」と「子宮がん」については、30歳代から罹患率が上がりだすので、早めの準備が必要となります。
男性の前立腺ガンも、現役世代である50代から患者数が増え始めるので注意⚠️が必要です。
女性のガンの危険因子のなかには、女性ホルモンの影響など避けようのないものもありますが、生活習慣に潜む危険因子は生活習慣の改善で減らすことができます。なかでも重要なのは、「禁煙」です。喫煙習慣のある人は、直ちに禁煙を実行しましょう。
食生活では、動物性脂肪を控え、野菜や果物を積極的にとるようにして、バランスのよい食事を心がけましょう。お酒は適量を守り、乳がんの危険因子を持っている人はできるだけ控えるようにしましょう。
また、閉経後の肥満は乳がんや子宮体がんの危険因子にもなるので、日常生活での活動量を増やすとともに、適度な運動を習慣として行い、肥満の予防・改善につとめましょう。
(参考:全国健康保険協会ホームページ、女性のがん】 近年、若い女性に急増している「乳がん」と「子宮がん」より抜粋)
まとめ
入院が長引いても、すべて貯蓄でカバーできるのであれば、ガン保険は必要ないかもしれません。
しかし、「傷病手当金制度」のない国民健康保険の加入者や家のローンや子供の教育費がある世代などは、この「治療費」を重く感じる人も多いでしょう。
そんな場合には、民間のがん保険に加入する手もあります。
ガン保険に加入するときは、「がん診断給付金」を活用するのがおすすめです。
がん診断給付金は、ガンと診断された場合に支払われる一時金で、手術や化学療養など様々なガン治療に活用できます。
しかし、古いタイプの「がん診断給付金」は、「初回診断時1回だけ給付」としているものが多く再発リスクに対応できないものが多いため、10年以上前に加入している人は保険の見直しを強くおすすめします。
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