定年退職後は「任意継続」と「国民健康保険」どちらを選ぶと良いのか?

健康保険

定年退職すると、それまでに加入していた「健康保険」の資格も喪失となるため、新たな健康保険に加入しなければなりません。
日本では国民皆保険制度が導入されているため、この様な「保険の空白期間」が生じ無いよう速やかに手続きを行う必要があります。

定年退職後に加入する健康保険の選択肢としては、主に次の3つあります。
①今まで加入していた健康保険の任意継続となる
②国民健康保険に加入する
③家族の健康保険の被扶養者になる

今回は、定年退職後に加入する健康保険の「加入の要件」や「保険料」などについてまとめてみます。

「任意継続」の保険料と手続きについて

任意の「に」は「2」と関係が深い
「任意継続」とは、協会けんぽや健康保険組合の被保険者であった人が、引き続き退職前の健康保険に2年間加入できる制度です。

保険料については、これまでの様に労使折半ではなく全額を自分で負担する必要があるため、保険料は2倍になります。
しかし、任意継続の保険料を決める基礎となる標準報酬月額には上限があります。ちなみに、協会けんぽにおいては「30万円」が上限となるため、1ヶ月の保険料は介護保険料を加え場合でも最高で月額3万5千円程度(令和5年度)です。

参考:健康保険料は「いつ」「どのように」決められているのか?

手続きの期限は、定年退職後20日以内
期限を1日でも遅れると、加入できませんので、退職時に手続きは済ましていた方がいいでしょう。
加入資格は、「定年退職の前日までに継続して2ヶ月以上」被保険者として健康保険に加入していたことが必要になります。

任意継続のポイント
【資 格】継続して2ヶ月以上被保険者
【手続き】定年退職後20日以内に手続き
【保険料】全額自己負担
【標準報酬月額】自分の退職前の標準報酬月額と全ての被保険者の標準報酬月額の平均額(令和5年度の協会けんぽの場合は30万円)と比較し低い方

国民健康保険に加入する

定年退職後に他の健康保険に加入しない場合は、14日以内に、国民健康保険に加入する必要があります。

国民健康保険の保険料は、前年の所得が影響するので、定年退職前の所得が高かった人は保険料が高くなります。ちなみに、退職所得(退職金)は前年所得の対象外ですので保険料の計算には影響がありません。

また、国民健康保険には「被扶養者」という区分がありません。家族それぞれで国民健康保険に加入し保険料を納める必要があります。

特に大きな病気に罹ることなく健康に過ごせた人の中には、「病気になってから保険証に加入すればいいのでは?」と考えている人もいるかもしれませんが、その考えはNGです。
日本は、国民皆保険制度により、定年退職後も空白期間が無く何らかの健康保険に加入する必要があるので、保険未加入者は退職日に遡って国民健康保険加入者とされ、その期間の保険料を納めなければなりません。

家族の健康保険の被扶養者になる

定年退職する人の年収が180万円未満(60歳以上の場合)で、その配偶者や家族が健康保険に加入していれば、その「被扶養者」となることができるかもしれません。
被扶養者になるための要件は大きく2つあり、①定年退職者の「年収」要件と、②定年退職者を扶養にしようとする被保険者と「同居」しているのか、「別居」なのかによって異なる「生計維持」要件です。

被扶養者となるための要件

同 居別 居
年収要件定年退職者(60歳以上)の年収が180万円未満であること
(60歳未満の人は、130万円未満)
生計維持要件加入しようとしている健康保険の被保険者の年収の1/2未満であること定年退職者の年収より、健康保険の被保険者からの仕送りの方が多いこと

年収とは今後の収入見込みのこと
なお、この場合の「年収」は実績ではなく「今後の収入の見込み」で判断されます。
そのため、年度末である3月に定年退職となり、それ以降収入の状況が変わった人は、状況が変わった後の収入見込み額で年収を考えることになります。

雇用保険の基本手当(失業手当)を受け取っている人は、その期間、被扶養者になることはできません。失業手当は「収入」に含まれるうえ、基本手当を受け取るということは「就業の意思があり、将来に向けて無職ではない」と判断されるためです。

ただし、これら扶養になるための要件については「健康保険組合」ごとに違いがあります。
「扶養」に入ることを検討している人は、事前に加入しようとしている健康保険組合に加入要件を確認しておくことが重要です。

任意継続と国民健康保険との保険料の比較

それでは、令和4年に協会けんぽの被保険者で60歳になって定年退職した人を例に、定年後の保険料を比較してみましょう。
・退職者:夫

・家族構成:夫と妻(専業主婦)
・退職時の収入:標準報酬月額50万円(年収700万円)
・千葉県千葉市在住

任意継続を選択した場合
退職時の標準報酬月額は50万円でしたが、令和4年度の「協会けんぽ」における任意継続被保険者の標準報酬月額の上限は30万円のため、標準報酬月額は「30万円」になります。
妻はそのまま被扶養者となるため、保険料の負担はありません。

介護保険料を加えた保険料率は、11.4%。
月々納める保険料は、30万円 × 11.4% = 34,200円になります。

保険料率11.4%(健康保険料率9.76%+介護保険料率1.64%)
保険料月額34,200円(年額410,400円)
妻は被扶養者に該当するため、保険料の負担はありません

国民健康保険を選択した場合

国民健康保険には、
❶世帯ごとに必要な「平等割」
❷世帯に属する被保険者(子どもを含む)数に応じて納める必要がある「均等割」
❸世帯に属する被保険者の所得に応じて納める保険料が変化する「所得割」
これらを合計した金額を保険料として納める必要があります。

❶平均割:年41,280円
❷均等割:1名分38,160円 × 2=年76,320円
❸所得割は前年所得(年収から控除を差し引いた金額)が計算の基礎となりますので、
477万円 × 11.69% = 年557,613円
❶〜❸の合計金額を12ヶ月で割るので、
年675,213円 ÷ 12ヶ月 = 56,270円になります。

年間の保険料は、世帯員の年齢や所得金額などにより計算します。
所得割額や均等割額は、加入者それぞれに均等に掛かりますが、所得割は前年所得から計算されるため、各世帯によって違いがあります。

平等割年41,280円
均等割年76,320円(38,160円*2人分)
所得割年557,613円(賦課基準額477万円*11.69%)
保険料月額56,270円(年額675,213円)
*賦課基準額とは前年所得のこと
年収700万円ー給与所得控除180万円ー住民税控除額43万円=477万円

このように、前年所得が高い場合や扶養親族がいる場合では、任意継続の方が有利になる傾向があります。

なお、世帯の総所得に応じては保険料が軽減・減免されることがあります。必ず、ご自身がお住まいの自治体ホームページ等でご確認ください。

参考:50歳からでも遅くはない❗️つみたてNISAの「魅力」と「手数料(信託報酬)」の影響について

まとめ

1年目は任意継続、2年目は国民健康保険というパターンがお得だったが…
定年退職後に国民健康保険に加入すると、「所得割」や「均等割」の影響で任意継続より保険料が高くなる傾向にあります。
しかし、退職して2年目になり収入が老齢年金だけの場合だと、均等割が安くなったり、家族の扶養に入れる可能性も出てきます。

退職後の健康保険は、1年目は任意継続、2年目は国保に加入するなど、退職後2年分の保険料を比較すると良いでしょう。

2022(令和4)年1月、健康保険法が改正され、任意継続被保険者制度の保険料の算出方法が変更されました。注意⚠️です。

2022(令和4)年1月、健康保険法が改正され、任意継続被保険者制度の保険料の算出方法が変更されました。

今までは、各健保組合が①「退職時の標準報酬月額」と②「組合の全被保険者の平均標準報酬月額」のうち、低い方の金額を基に保険料を決めていましたが、改正後は健康保険組合が規約に定めれば、②「組合の全被保険者の平均標準報酬月額」を超え、①「退職時の標準報酬月額」未満の範囲内で保険料を算出できるようになりました。

つまり、①が62万円、②が30万円であった場合は、高い方の①62万円を基に保険料が算出することが可能になり、任意継続の保険料が高くなる可能性があります。

自分が加入している健康保険組合の規約の変更には注意しておく必要があります。なお、協会けんぽは対象外です。

加入要件保険料
任意継続被保険者・退職日まで2ヶ月以上加入
・退職後20日以内に手続き
・退職時の標準報酬月額だが上限あり
※令和4年に一部改正あり
・全額自己負担
・扶養者は無料
国民健康保険なし前年の所得と世帯人数によって決定
家族の扶養60歳以上→年収180万円未満
・60歳未満→年収130万円未満など
無し

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ミスター長男50

【プロフィール】

1969年(昭和44年)生まれ
富山県で生まれ、今は千葉県民
・仕事は病院事務(管理職)
・社会保険労務士
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)
「仕事」や「お金」に関する法改正や、(定年)退職後や資産形成に関する疑問などを分かりやすくまとめ、発信していきます。

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